2017年 04月 03日
春祭 『神々の黄昏』 新しい幕が開いたN響のサウンド |
私は、ワルキューレから見ているので、今年で三年目です。この三年間でN響の音は劇的に変わりました。正直『ワルキューレ』の時は、金管楽器や打楽器に欲求不満を感じていました。ウィーンフィルのコンサートマスターだったキュッヘルさんが弦楽器群を引っ張って、時にウィーンフィル特有のボーイングをだしていたのが救いだったのです。そのキュッヘルさんも昨年の夏に、ウィーンフィルのコンサートマスターを卒業して、今年は正式にN響の客演コンサートマスターになったそうです。しかし、肝心な金管楽器がそろわないので話になりません。
それが、ヤルヴィの就任でN響の音が変わり始めました。まず問題があったトランペットが良くなり、ホルンに自信を持って演奏する福川さんが入り、音が整いました。そして音楽のスケールを左右する打楽器陣がダイナミックに変わり始めました。
出だしから、オーケストラは好調でした。第一ヴァイオリン群がめずらしくそろわなかったぐらいです。しかし、緊張感がある演奏で舞台を作り上げていきます。歌手陣は、まだ第一幕だからという事もあるのでしょうが、安全運転中という感じです。劇的にはあまり盛り上がらず、オーケストラも最後の部分で片鱗は見せましたが、歌手陣は長丁場の演奏も考えてか、ジークフリートもブリュンヒルデもそのオーケストラに声が埋没していました。
それが、一幕目の最後の第三場で、クールマン演じるヴァルトラウテが登場して、音楽の空気感が変わったようです。安全運転だったレベッカ・ティームのブリュンヒルデのギアが上がりました。そしてアイン・アンガーのハーゲンのバスバリが一段と迫力を増してきたのです。今日の公演は本来予定されていたジークフリート役のロバート・ディーン・スミスとブリュンヒルデ役のクリスティアーネ・リボールは、急な体調不良による音声障害で出られなくなり、急遽代役で、アーノルド・ベズイエンとレベッカ・ティームが29日に呼ばれたそうです。それからゲネプロ一回での本番ですから無事にこなすのが精一杯という感じでした。
昨年のジークフリートは、進境著しいジャガーが好演して評判を呼びましたが、ワルキューレの時はロバート・ディーン・スミスでした。熱演型でジークフリートには向いていますが、今日のベズイエンはどちらかというとタミーノ的なおとなしい声で、ワーグナーテノールでは無いようです。これは仕方ありませんね。一方のレベッカ・ティームは今日だけの公演なので、だんだんと本領が発揮されてきました。ヤノフスキーの公演で東京での成功は彼女の将来に輝かしい歴史を残せるでしょう。
その真価が、第三幕になって訪れました。この指輪の長大な楽劇は、最後のブリュンヒルデによって決まります。ブリュンヒルデの自己犠牲の場面からレベッカ・ティームがんばりが公演を締めくくりました。また敵役のハーゲンのアイン・アンガーは完璧でした。『ばらの騎士』のオックス男爵や『トス力』のスカルピアのように暗く輝くのです。舞台裏から洞窟の中から聞こえてくるような彼の低音は、今回の公演をどれほど盛り上げたでしょう。
それらの歌手陣を配して、この楽劇の一番のハイライトは、ヤノフスキーのN響でした。四年間ヤノフスキーの下でワーグナーを演奏してきて、大変な進歩があったとおもいます。『ジークフリートの葬送行進曲』が流れているときに頭をよぎったのは、40年前この場所できいたムラヴィンスキーのあの演奏でした。それ以来、決して聞くことの出来なかった気合いが入りそろったときのオーケストラの壮大な響きを聞くことが出来ました。会場にいる人全員にこの演奏は届いているでしょう。壇上で弾いているメンバー全員が一番実感していると確信します。N響は変わったと思います。たとえは変ですが、ワールドカップで決勝トーナメントに進んだような高揚感も感じました。
4/4には、マイミクの人たちも行かれるでしょう。行けるならば、あの演奏を今一度聴きたいと思いました。
■日時・会場
2017.4.1 [土] 15:00開演(14:00開場)
東京文化会館 大ホール
■タイムスケジュール
序幕・第一幕:15:00-17:00
休憩(30分間)
第二幕:17:30-18:35
休憩(30分間)
第三幕:19:05-20:20
終演時刻:20:20 [予定]
■出演
指揮:マレク・ヤノフスキ
ジークフリート:アーノルド・ベズイエン
グンター:マルクス・アイヒェ
ハーゲン:アイン・アンガー
アルベリヒ:トマス・コニエチュニー
ブリュンヒルデ:レベッカ・ティーム
グートルーネ:レジーネ・ハングラー
ヴァルトラウテ:エリーザベト・クールマン
第1のノルン:金子美香
第2のノルン: 秋本悠希
第3のノルン:藤谷佳奈枝
ヴォークリンデ:小川里美
ヴェルグンデ:秋本悠希
フロースヒルデ:金子美香
管弦楽:NHK交響楽団(ゲストコンサートマスター:ライナー・キュッヒル)
合唱:東京オペラシンガーズ
合唱指揮:トーマス・ラング、宮松重紀
音楽コーチ:トーマス・ラウスマン
映像:田尾下 哲
by TANNOY-GRF
| 2017-04-03 12:16
| 演奏会場にて
|
Comments(1)
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TANNOY-GRF at 2017-04-03 16:42
東京文化会館の音は、昔のあのログレコードの音がします。ミューザのような立体感では無く、音はあくまでもステージから放射されてきます。ティンパニ−・大太鼓・シンバルの打楽器陣が渾身でえんそうしていて気持ちが良かったです。そして、分厚いチューバとトロンボーンが炸裂していました。5台のハープも低音の厚みに貢献しています。オーディオ的にも満足するいい音でした。