2018年 09月 19日
パグ太郎さんの「S.Y邸訪問記」 |
GRF様
先日は、雨の中、国立のS.Y邸へのご案内を頂き、有難うございました。
GRFさんのS.Y邸訪問記事にあった写真、あの写真の端に写っていた書棚の様子を拝見して、これは普通のお宅ではないなと感じ、ずうずうしくもご案内をお願いしてしまいました。実際に、お邪魔してみますと、想像以上の面白・不思議空間で、すっかり魅了されてしまいました。
先ず、建物の外観。昭和三十年代、国立の学園通り周辺にも牛小屋があったという時分に、このようなモダン(当時としては超前衛的?)な建物が、いきなり建設されれば周囲はきっと驚いたことでしょうね。半世紀経過した今でも斬新な外観ではありながら、年月を経て秘密を蓄積している雰囲気を漂わせていました。
そして、御宅の玄関に入った瞬間から、やはり異次元空間でした。全ての壁が造りつけの天井までの高さの書棚になっていて、そこかしこに見え隠れする美術品・工芸品の数々、その状態が、玄関から居間、そして書斎、そして、ちらりとしか見えない続きの間とその奥の階段まで続いて、魔法使いか占星術師の棲家に迷いこんだ印象でした。
書斎には大きな一枚板の古い大きなテーブルがあり、それを仕事机にしておられますが、その上には、調べかけの書籍が山積し、書きかけの原稿の校正が散らばり、仕事中に聴かれていると思われるCDの数々、この「雑然さ」がご本人にとっては整理された状態で、余人が手を出すことは許されない、そういう楽しい状態です。こういう豊かなカオスを自分も作り上げたいと思うのですが、悲しいかなリビングで掃除機に追い立てられる身には、夢の、また夢ですね。
机の背面、左右の三方の壁も高い天井までの書棚、そこには文学、音楽、美術、映画、歴史、民俗、言語などなどに関わる古今の書籍が、一見脈略もなく隙間無く並んでいます。これもまた、他人には見えない、この部屋の主の文脈にそって配置されているに違いないと思いました。
そして、その机に対面する形で佇んでいる、Brodmannのフロア型のスピーカーは、流石、多くの芸術家が愛用したピアノの老舗メーカーであるベーゼンドルファーの流れを汲む作品ですね。もうオーディオ機器ではなく、諸々の不思議な工芸品の一つとして書斎の空間に溶け込んでいたのではないでしょうか。そして、その向こうには大きな窓が開けていて、夏草が自然に生い茂るままになっていて、先ほどからの小雨に濡れた彼岸花の紅一点が、初秋の風情を感じさせてくれていました。
こんな環境で、音楽を聴いて、本を読んで過ごすのは夢のような生活です。一日中でも籠って、本棚の書籍を漁り、美術工芸品を掘り出し、ブロッドマンで奏でるピアノ音楽を聴いていたいという願望を膨らませていたのですが、GRFさんは何時もの如く、スピーカーに一蹴り二蹴りの調整を加え、音楽に生気と輝きを加えることを実践され、更に不思議なことに、CDプレイヤーの上やラックの上の埃を濡れティッシュでふき取るということまで始められましたね。
この瞬間の偽らざる気持ちは、「いや、この掃除の行き届かない(失礼!)、埃の陰から何が飛び出してくるか判らない所も含めて、この空間の魅力なのに、掃除?」でした。でも、それが音に影響するから不思議です。静電気の帯電を除去する効果を狙ったいう種明かしをして頂いて、初めて納得するも、こんなことでも音が変るのかと、またビックリです。
S.Yさんはクラシックは主にシステム・チェック用ということで、一蹴り二蹴りの時だけで、その後は、女声アカペラ グループ、エルビス・プレスリーの讃美歌集、ナット・キングコールのラテン、柴田淳の70年代のカバー、そしてそのユーミンのオリジナル、矢野顕子のピアノと歌、そして戦前の童謡歌手 平井英子・・・・。
国籍、時代、ジャンルが交じり合って、文脈無く飛び出してくる様は、この書斎の精神をそのまま反映している様でしたね。でも、ここにも本当はもう少し探らなければ見えてこない、必然があるはずだと思っています。そしてブロッドマンのスピーカーの独特の雰囲気と色気も、それを読み解く一つの鍵のような気がします。やはり、ここに籠って、その秘密を探らなければという気持ちが高ぶる中、次の予定の刻限となり、後ろ髪を引かれる思いで、S.Y邸を後にさせていただきました。
S.Y様、お休みの所、御もてなし頂き有難うございました。これは、あの空間は私にとっては一つの理想郷です。久しぶりに、本物の書斎を拝見させて頂きました。
GRF様、ご案内頂き、感謝申し上げます。いつにも増して、オーディオ感想でもなく、更に音楽感想でもなくなってしまいました。
by TANNOY-GRF
| 2018-09-19 22:31
| 行ったり
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