さあ、今日はミューザ川崎でのベルリンフィルです。ほぼ一年おきにベルリンフィル は来日しますが、今年は夏の富士山麓でも、サマーフェスティバルを行っていますから、来日は二度目ですね。夏休み時の来日は、ベルリンフィルのメンバーはいろいろな団体や個人で活躍していますから、一石二鳥みたいな開演でした。11月の都響は今年の様なこくしょの時も、しっかり涼しくなり、東京は冬の気圧配置になって行きますから、最も過ごしやすい時期でしょう。
この時期しか来日しない外国の友人は、東京はなんて気候が良いのだと、大好物の蜜柑を頬張っていつも言います。あの夏の蒸し暑さ、最近の酷暑を知らないから言えるのですね。最も今年のヨーロッパも大変な猛暑でした。台風やハリケーンも今までにない大きさで上陸して来ます。それでも、トランプ政権は対策を無駄な費用だと切り捨てていますが。
ベルリンフィルの今回の演目は、ヤナーチェック・バルトーク・ストラヴィンスキーのAプロと、シューマン・ワーグナー・ブラームスのBプロの組合せです。来日前の10月29日、30日、31日の本拠地 ベルリンフィルハーモニーでは、ヤナーチェック、バルトーク、ストラヴィンスキーのAプロと、11月3日にフランクフルトで、ワーグナー、シューマン、ブラームスの組合せを演奏しました。
7日、8日、9日からソウルのアーツセンターで韓国ツアーが始まりました。そして、11日、12日、13日は台湾の台北のナショナルセンターホールで、各々三日間の演奏会をこなして、15日、16日の上海のオリエンタルアーツセンターから日本に来ましました。19日サントリーホール、20日横浜のみなとみらいホール、今日、22日にミューザ川崎を演奏して、23日にサントリーホールで全16回の長いツアーを終了します。
このスケジュールを見ると、改めてプロの、それも一流のオーケストラの凄さを感じます。ほぼ一月にもわたる外国ツアーで四カ国を渡り歩き、淡々と同一プログラムを演奏し続けるということです。どんな職業でも同じですが、一つのことを続けるというのがどれだけ大変で、尊いものかが分かります。
ベルリンフィルほど、慣れ親しんだオーケストラはないでしょう。デジタルコンサートホールとして、毎週見られるだけではなく、何回も繰り返して聞けてその演奏の凄さは毎回実感しています。オーケストラのメンバーの顔も知り尽くしていて、ミューザではリハーサルを終えた彼らの姿をよくフードコートで見かけます。今回も一階のハンバーグ屋さんで、トランペット奏者がかじりついていました。だから彼はこれほど大きくなっただとわかる具合です。
今日は本来は、ステージ横の2LAの席でしたが、直前に来られなくなった人の席で聞くことにしました。私自身が購入した券ですから良いでしょう。全体を俯瞰できる三階の席です。すぐ下の二階中央最前列には、ベイさんが居るはずですが。ここは招待席ですから良い席です。
開演前からコントラバスの奏者がチューニングをしています。その最低音の音もベルリンフィルだと楽器が違うのでしょうか、より深い音がします。オーディオ装置からは滅多に聞けない深い音です。実演は、こんなに深い音がしているとは、ほとんどの人は思っていないかもしれませんね。また音が遠くまで届く、ミューザ特有の音なのかもしれません。30分ぐらいその音を楽しんでいました。やがて定刻になり、両側のドアが開いていつものメンバーが入って来ました。
常任指揮者のペテレンコの公演では、ベストメンバーが揃いますが、今日は特に凄く、各パートのトップは全員主席です。いつもデジタルコンサートホールで見慣れた顔が見受けられます。
最初の曲はシューマンのマンフレッド序曲です。最初の響きがなった瞬間に、先日のマケラ・コンセルトヘボウとの違いがわかりました。この様な音をヤンソンスの時代は鳴らしていたのにと、昔のコンセルトヘボウを思い出したほどです。ペテレンコ・ベルリンフィル は柔らかく、緻密でくすんだ色のシューマン特有のサウンドを節制をもって鳴らします。静かな秋の日の身近な陽を求めて歩いているかの様です。ヴァイオリンの音は、コンセルトヘボウの暖色系より透明で、楽器の質が上がった様になります。柔な音を求めてペテレンコが上の方を探します。すごい美しい音でした。
驚いたのは途中でトランペット奏者が三人とも上手に静かに退席したことです。どこか違うところからトランペットの響きがするのかと思いましたが、どこでなったのかは分かりません。クライマックスに近づくとシューマン特有の音の揺れが増し、オーケストラ全体も左右に揺れている様です。やがて静かに音楽は収束してペテレンコがタクトを下ろしました。
マンフレッドを終えたら、オーケストラのメンバーの半数は退場して、木管楽器も半分になりました。ホルンとクラリネットだけが二本で、あとは一本ずつの編成です。弦楽器も5プルトに縮小され、見た目も室内楽の編成です。始まったのはワーグナーのジークフリード牧歌。この曲は弦楽器も一本づつで演奏されることもあり、その時は完全に室内楽の範疇に入りますが、今日は通常の半分ぐらいの編成で、音量は小さいけれど、響はオーケストラの柔らかさをもっていました。
このメンバーの弱音の巧さは、特筆ものです。ベルリンフィルの凄さが現れます。そして、その音はヤンソンスの時代のコンセルトヘボウの特徴でもあったのですが、、、一流のオーケストラの証は、やはり弱音の表現にあります。ムラヴィンスキー・レニングラードの凄さもそこにありました。その弟子のヤンソンスも、今回のペテレンコもその域に達しました。そこがラトルとの違いだと思います。最弱音を求め、出す指揮者は本当に少ないし、実現している人は少ないのです。
弱音を出すのも、またそれを柔らかな響きで持続するにもオーケストラのメンバーの強い力が必要です。それを統率する指揮者の負担は如何ばかりでしょう。ペトレンコがデビューした時のモーツァルトの36番はすごかったです。オーケストラがなぜペテレンコを次期主席指揮者に選んだかが分かります。オーケストラのメンバーもその真剣勝負を期待しているのでしょう。まさにオーケストラの違いは弱音にあることを証明した様な演奏でした。素晴らしいです。
休憩時間になりました。大勢の人が二階に溢れます。今日は約束していたY2さんとTDさんにはお会いできました。ベイさんとは会えずじまいでした。毎回思うのですが、2000人の観客にはトイレの数が少ないと思います。今日も車ですから、ワインはダメで、小さなお茶のペットボトルを持参していました。
さて、後半も今の三階席で聴きます。二階中央から一段上がった、私の好きな右側なので、音響的には最高です。細かな音まで聞こえますし、コントラバスの重低音も押し寄せて来ます。ベストは二階席の中央、少し右側でしょうが、ヤンソンスの時に一回あったきりです。
ティンパニーが打ち下ろされて、ブラームスの一番が始まりました。ティンパニーの音は、ベルリンフィル ハーモニーにあっているのでしょうか、ミューザでは少し鳴り過ぎです。時々マーラー 的な動きも見えるのが気になりましたが、それ以外は完璧です。ホルンの後を追うフルートの見事さ、この曲をこの秋何回も弾いているコンサートマスターのノア・ベンドリクスのソロの部分も完璧でした。以前は少し太かったヴァイオリンの音色も樫本大進風の繊細さも出て来ました。楽器が変わったのでは?
弦楽器も木管楽器も全て主席が並んだベストメンバーが川崎で揃いましたから、最高の演奏でした。終楽章の素晴らしい第一主題が始まった時、長い間聞いて来て初めてこれはベートーヴェンの第九の歓びの歌だと気がつきました。だから耳に馴染んでいるのだと、何十年も聞いてきて初めて実感したのですから迂闊ですね。
演奏はどんどん盛り上がり、ティンパニーは強打され、弦楽器はうねり、管楽器は咆哮しましたが、ペテレンコ特有の枠は外れません。ベルリンフィルの底の深さや凄さを実感した演奏でした。前回の第四番とは随分と違った印象でした。
演奏が終わり、一斉に出てくる人たちで満員になった出口を通り駐車場に降りるエレベーターのところまでくると、先週と同じ車椅子を押されているAさんを見受けしました。先週も車椅子に集中されているAさんにはお声をかけずじまいでしたが、今週も同じです。落ち着いたらご連絡を差し上げましょう。先週に引き続き駐車場を出るのは一番でした。外に出るとまだ五時だというのに、真っ暗でした。連休なので環七はやはり混んでいて戻って来たのは六時半を回っていました。早速今日のすごい演奏に乾杯しました。
今週もすごい一週間でした。最後にペテレンコの成熟したベルリンフィルの素晴らしい演奏を聞けて良かったです。これで今年の11月のミューザは終了です。
さて、来年はどうなるでしょう。