2015年 06月 27日
驚きのイリーナ・メジューエワ 前半 |
事の始まりは、ドビュッシーのCDでした。ご本人の美しさにも驚きでしたが、響きが純化した演奏には、魅せられました。早速、CDを購入。順番に聴いていきましたが、実況録音盤の聴衆のうるささにはビックリ。演奏中に雑音を出しすぎで、演奏に集中できなほどです。録音の仕方にも問題が有るのかもしれませんが、富山の人には申し分けないけれど、演奏に集中していない聴衆のように思えました。しかし、その音から伝わってくる演奏者の集中度と気迫には驚き、是非、実演を聴いてみたいと思いました。
しかし、なかなか演奏会が開かれません。関東での演奏会は、終わっていて、今年はありそうにもないのです。出るレコード、出すレコードが、さまざまな賞を取っているのに、数えるほどの公演数なのです。カルチャーセンターでの講演と仙台の音楽祭を除くと、ホールでの本格的なリサイタルは、名古屋の電気文化会館だけなのです。名古屋の電気会館は、厳選された演奏家だけが、公演を行っている400人ぐらいしか入らない会場です。金曜日の夜だったので、スケージュールは何とか出来ると思い、4月の中旬に申し込みました。
日が近づくにつれ、スケジュールが段々立て混んでいきます。ついには、同じ週に二回も名古屋方面に行くはめになりました。当日は、だんだん西に進むほど、雨がひどくなる梅雨の嵐の日で、夕方、会場近くのホテルにチェックインする頃には、ズボンの裾が濡れるほどの大雨になって来ました。しかし、電気会館の地下二階に設けられたホールは、内部は大理石で作られた明るい環境の素晴らしい響きのホールでした。大きさは、ヤマハホールぐらいですが、内装材が、やわらかな石造りで、地下にもぐっている感じがしません。
指定された席は前から四列目の右側の席で、指の動きは見えませんが、きれいな表情は目の前に見れるし、音は一番良い絶好の位置でした。メジューエワさんは、すらりとした体格で、CDのジャケットから抜けてきたような憂いを帯びたような美しい瞳で、はにかんだような、しとやかな礼の仕方に、ロシアの女性というより、日本海側のしとやかな女性のようにも思えました。
ところが、その柔らかでしとやかな印象とはうらはらに椅子に座った瞬間、目つきがまったく違い、真剣勝負の気迫がみなぎります。そして、打ち落ろされた音には、度肝を抜かれました。ショパンのボロネーズ第一番です。嬰ハ短調のショパン特有の響きが、予想を上回る音量できこえてきたからです。久しぶりに、調音がしっかり出来て、コンサートグランドピアノ特有の腰がしっかりした音を聴いたような気がします。スタインウェイの楽器ですが、中音の厚みはヤマハのピアノの響きさえ感じます。通常の硬質で、高音がきれいなスタインウェイではありません。ペダルワークの的確さから来るのか、音の重なりと余韻のコントロールが見事で、和音がとても解りやすく聞こえます。
驚いたまま、疾風のようにボロネーズが駆け抜けていきます。二曲目のノクターンは、一転して、柔らかな響きの中に、粒立ちの良い高音の鍵がきらめいていました。そして、ワルツから、バラードの第四番です。この曲ほど、彼女の二面性を良く表している曲は無いと感じました。静かにはじまる導入部。悲しみに満ちたショパン特有の旋律を一音一音響きを確かめながら静かに弾いていくゆったりとした時間。段々盛り上がっていくにつけ徐々に見えてくるショパンの狂気。
一瞬の全休止。
雪崩打つようにすべてが崩壊していく最後のコーダ。両手が交差しても、目だけは眼光鋭く譜面の中に没頭していく彼女の顔は、すさまじい力で、狂乱のコーダを進行してきます。驚きました。全力で弾いている彼女の背中は首から肩に掛けて、アスリートのように盛り上がり、尋常ではない力がみなぎり、格闘技のように音を切り開き、重ね合わせていきます。
眼光背紙を徹するという言葉を思い出させる気迫に溢れた鋭い、真剣で立ち向かう剣士のような殺気さえ感じる演奏でした。
驚き、感動しました。
演奏を終えて、しとやかに挨拶をする、はにかんだような彼女の顔と今、かいまみた彼女の心の中の暗闘が、どうしても一致しません。
前半の二人目のラベルは、予想していたようなオーケストラのような静けさを表現した演奏ではなく、ピアノ曲として、どう響いているかという演奏でした。そういえば、クリュイタンスの亡き王女のためのパヴァーヌを愛聴していたころ、サンソン・フランソワのピアノ演奏を聴いたとき、これは全く別な曲なのだと思った事を思い出しました。しかし、幾分大きな音に前から4列目の席がこの曲に関しては、前過ぎたのではとさえ思いました。
次のソナチネは、なかなかこの曲を演奏しているCDにはお目にかかれない曲です。私は、フランソワのラベル集を持っているので、聴いていましたが、三曲目がたいへん難しい曲だと思いました。
前半が終わり休憩時間に入って、ワインを手にして、驚きで声が出ません。超一流のアスリートの金メダルの競技を見たような感じもします。それでも徐々にその驚きを声にし始めました。語りはじめたら、バラードの様にそのおもいは次から次へと溢れてきます。
前半のプログラム
ショパン:ポロネーズ 第1番 嬰ハ短調 op.26-1
ショパン:ノクターン 第5番 嬰ヘ長調 op.15-2
ショパン:ワルツ 第5番 変イ長調 op.42
ショパン: バラード 第4番 ヘ短調 op.52
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
ラヴェル:ソナチネ
イリーナ・メジューエワ(ピアノ)
しかし、なかなか演奏会が開かれません。関東での演奏会は、終わっていて、今年はありそうにもないのです。出るレコード、出すレコードが、さまざまな賞を取っているのに、数えるほどの公演数なのです。カルチャーセンターでの講演と仙台の音楽祭を除くと、ホールでの本格的なリサイタルは、名古屋の電気文化会館だけなのです。名古屋の電気会館は、厳選された演奏家だけが、公演を行っている400人ぐらいしか入らない会場です。金曜日の夜だったので、スケージュールは何とか出来ると思い、4月の中旬に申し込みました。
日が近づくにつれ、スケジュールが段々立て混んでいきます。ついには、同じ週に二回も名古屋方面に行くはめになりました。当日は、だんだん西に進むほど、雨がひどくなる梅雨の嵐の日で、夕方、会場近くのホテルにチェックインする頃には、ズボンの裾が濡れるほどの大雨になって来ました。しかし、電気会館の地下二階に設けられたホールは、内部は大理石で作られた明るい環境の素晴らしい響きのホールでした。大きさは、ヤマハホールぐらいですが、内装材が、やわらかな石造りで、地下にもぐっている感じがしません。
指定された席は前から四列目の右側の席で、指の動きは見えませんが、きれいな表情は目の前に見れるし、音は一番良い絶好の位置でした。メジューエワさんは、すらりとした体格で、CDのジャケットから抜けてきたような憂いを帯びたような美しい瞳で、はにかんだような、しとやかな礼の仕方に、ロシアの女性というより、日本海側のしとやかな女性のようにも思えました。
ところが、その柔らかでしとやかな印象とはうらはらに椅子に座った瞬間、目つきがまったく違い、真剣勝負の気迫がみなぎります。そして、打ち落ろされた音には、度肝を抜かれました。ショパンのボロネーズ第一番です。嬰ハ短調のショパン特有の響きが、予想を上回る音量できこえてきたからです。久しぶりに、調音がしっかり出来て、コンサートグランドピアノ特有の腰がしっかりした音を聴いたような気がします。スタインウェイの楽器ですが、中音の厚みはヤマハのピアノの響きさえ感じます。通常の硬質で、高音がきれいなスタインウェイではありません。ペダルワークの的確さから来るのか、音の重なりと余韻のコントロールが見事で、和音がとても解りやすく聞こえます。
驚いたまま、疾風のようにボロネーズが駆け抜けていきます。二曲目のノクターンは、一転して、柔らかな響きの中に、粒立ちの良い高音の鍵がきらめいていました。そして、ワルツから、バラードの第四番です。この曲ほど、彼女の二面性を良く表している曲は無いと感じました。静かにはじまる導入部。悲しみに満ちたショパン特有の旋律を一音一音響きを確かめながら静かに弾いていくゆったりとした時間。段々盛り上がっていくにつけ徐々に見えてくるショパンの狂気。
一瞬の全休止。
雪崩打つようにすべてが崩壊していく最後のコーダ。両手が交差しても、目だけは眼光鋭く譜面の中に没頭していく彼女の顔は、すさまじい力で、狂乱のコーダを進行してきます。驚きました。全力で弾いている彼女の背中は首から肩に掛けて、アスリートのように盛り上がり、尋常ではない力がみなぎり、格闘技のように音を切り開き、重ね合わせていきます。
眼光背紙を徹するという言葉を思い出させる気迫に溢れた鋭い、真剣で立ち向かう剣士のような殺気さえ感じる演奏でした。
驚き、感動しました。
演奏を終えて、しとやかに挨拶をする、はにかんだような彼女の顔と今、かいまみた彼女の心の中の暗闘が、どうしても一致しません。
前半の二人目のラベルは、予想していたようなオーケストラのような静けさを表現した演奏ではなく、ピアノ曲として、どう響いているかという演奏でした。そういえば、クリュイタンスの亡き王女のためのパヴァーヌを愛聴していたころ、サンソン・フランソワのピアノ演奏を聴いたとき、これは全く別な曲なのだと思った事を思い出しました。しかし、幾分大きな音に前から4列目の席がこの曲に関しては、前過ぎたのではとさえ思いました。
次のソナチネは、なかなかこの曲を演奏しているCDにはお目にかかれない曲です。私は、フランソワのラベル集を持っているので、聴いていましたが、三曲目がたいへん難しい曲だと思いました。
前半が終わり休憩時間に入って、ワインを手にして、驚きで声が出ません。超一流のアスリートの金メダルの競技を見たような感じもします。それでも徐々にその驚きを声にし始めました。語りはじめたら、バラードの様にそのおもいは次から次へと溢れてきます。
前半のプログラム
ショパン:ポロネーズ 第1番 嬰ハ短調 op.26-1
ショパン:ノクターン 第5番 嬰ヘ長調 op.15-2
ショパン:ワルツ 第5番 変イ長調 op.42
ショパン: バラード 第4番 ヘ短調 op.52
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
ラヴェル:ソナチネ
イリーナ・メジューエワ(ピアノ)
by TANNOY-GRF
| 2015-06-27 22:38
| 演奏会場にて
|
Comments(2)
Commented
by
(Y)
at 2015-06-29 00:04
x
GRFさんは、お気に入りの女性演奏家を描かれる時には格別の筆の走り方をされますね(笑)。クラシックに疎い僕にも、これは一度聞いてみなくては、と思わされますが、大抵はGRFさんの審美眼に叶った別嬪さんです(笑)。これは非常に大切なことです。
Commented
by
TANNOY-GRF at 2015-06-29 08:19
(Y)さん お褒めにあずかりまして、恐縮です。先日の演奏会は、また特別でした。あれだけきれいな人には、早々お目にかかれません(爆)。加えて、あの演奏スタイルと、度肝を抜かれる音には本当に驚きました。(Y)さんもぜひ、チャンスがあったら、聴きに行かれてください。すべてが一流品です。観客以外は、、、