2018年 12月 05日
ズービン・メータとバイエルン放送交響楽団 英雄の生涯 |
休憩時間はの始まりは、皆、トイレの列への競争です。二階席の右側通路にトイレがあるので、きょうは並ばないでも済みました。出てくると女性用は長蛇の列です。きょうはキーシンの所為か、女性のお客様が多く、ほぼ半分近いのではないでしょうか?ブルックナーとは大違いです。
今回のバイエルンはヤンソンスの病気もあって、マーラーの七番を聞き損ないましたが、代わりに来たメータのおかげで、大変感動もしました。この演奏会の間に、一つ年をとりましたが、メータのおかげで、まだまだ頑張らなくてはと大きなエネルギーをいただきました。
このところ、顔見知りの評論家の先生達とは、毎週のようにお会いしていますが、その他には知った顔の方はお見受けせず、すこしずつ世代交代が進んでいる気もします。また、我々の世代の方のほとんど、年金生活に入られているので、ヤンソンスとキーシンという組み合わせに、私自身も清水の舞台を飛び降りましたが、このサントリーホールでの演奏会にご夫婦連れで来られる方々は、そうはおられないようです。その代わり、ホワイエでは中国語の大きな声が飛び交っていて、シャンパングラスが足りるのかと思ったほどです。
しかし、このホールでは11月だけでも、ティーレマン・ドレスデン(¥30,000)、ゲルギエフ・ミュンヘン(¥33,000)、ギルバート・NDR(¥20,000)・これは助かりました、キーシン(¥21,000)、内田光子(¥14,000)、カレーラス(¥35,000)、サンクトペテルブルクフィル(¥21,000)、ウィーンフィル(¥37,000)の3回のコンサート、そして、今日のメータ・BRSO・キーシン(¥42,000)、その間を埋める様に日本のオーケストラも、日フィル(¥9,000)、読響(¥7,500)、都響(¥7,000)、東響(¥9,000)、演奏会形式の東フィルは(¥15,000)、N響(¥8,800)の定期が入っています。
世界中探してもこんなに忙しく、また一流のオーケストラが訪れるホールはないと思います。ちなみに、これらの公演をすべて一回づつ見たとすると、約30万円です。ウィーンでもNYでも、一週間行ってこられますね。それのほとんどすべてが、満員なのですから、東京のお客さんは世界一クラシック好きなのかもしれません。だから、オーケストラが毎年訪れるのでしょう。
下世話ですが、7,000円の都響でも2000人入れば1,400万円です。7割入れば1,000万近い売り上げになります。外国のオーケストラの3万円のチケットですと、なんと6,000万円です!日本で3回公演をすれば、1億8千万円です。今回のBRSO・バイエルンは、池袋、西宮、川崎、サントリー二回の五回公演ですから、2万円としても2000人かける五回の1万人はの増員ですから2億円です。その七割が入ってくれれば1億4千万円、経費を三割とすれば、一億円の収入です。演奏者100人、裏方さん50人の大人数でも、一人均等で70万円有ります。ボーナスを稼ぎに来るという話しは本当でしょうね。
ウィーンフィルの場合は、毎年決まっての引っ越し公演です。二ヶ月に一回は来日しているメンバーもおるでしょう。日本は、世界最大のクラシック音楽の市場なのです。サントリーホールの貸し賃は130万円、昼夜つづきでも260万円です。来日費用が2,000万円、滞在費用も2,000万円、公演はオーケストラとしては3回ですが、室内楽団や公開リハーサルなどもありますから、数回の公演です。スポンサーが、それらの経費の一部を負担すれば公演リスクも随分と薄まります。
しかし、呼び屋さんと言われるプロモーターは、毎回ギャンブルをしているみたいですね。今回の様に看板指揮者のヤンソンスが来られなくなると、癌の治療をしていたメータまで呼び出すわけですから。もっとも、それらの決定は、台湾、韓国公演もありますから、バイエルン側の決断でしょうが、リスキーさは変わりません。そんな下世話なことを、満員のサントリーホールのエスカレーターを上り下りして考えていました。
休憩が終わって会場に戻ると、ピアノがなくなってステージは少し広くなっていました。難曲の英雄の生涯の早いパッセージに備えて、コントラバスはスクローリングをして備えています。今日の席は対抗型の配置なので、そのコントラバスの音が直接響いてきます。またオーケストラの厚みを横から感じられる好きな位置ですね。
左側の観客席を見渡すと、先ほどお会いした評論家の先生達が、正面二階席の最前列を陣取っています。彼らのように音楽を聴くのが仕事になると、年間200日以上各公演を観て、印象を文章にしなければならないので、演奏評を書くときの様々な配慮もあり、なにごとも仕事になると大変だと思いました。
それらの煩悩を一掃するかのように、英雄の生涯の胸のすくような響きが会場を満たしていきます。いや〜良い音ですね。ヤンソンスとは、まったく正反対ともいえるべき劇的なアプローチです。今回、ズービン・メータを観られて本当に良かったと、聴きながら胸が熱くなってきました。足は痩せ細っても、杖を突かなければ歩けなくても、指揮台に上がるのに、アプローチをつけても、来てくれて良かったと思いました。
台湾の高雄から始まった今回のメータによるアジアツアーは、台湾で4公演、日本で5公演、韓国で2公演の計11回です。このような体調でも、つねにオーケストラに熱く接するメータの命の情熱に心を打たれました。彼のそのエネルギーが、オーケストラのメンバーに伝わり、100人もの情熱が、リヒャルト・シュトラウスの「英雄の生涯」の「英雄」を出現させ、メータ自身に重なります。
昨日の最後のチャイコフスキーのワルツのような厚みを持って、地をはうように弦楽器達が動きます。この曲だけ、コンサートマスターがラドスラフ・シュルツ変わっています。彼の繊細だけど力強くもある響きが、何時も聴いているバラホフスキーとは違う響きをオーケストラ全体に及ぼしています。彼特有の足を開いて低く構える姿勢がそうさせているのでしょうか?不思議ですね。
ヤンソンスの「英雄の生涯」は、コンセルヘボウの演奏で聴き感動しました。何よりもピアニシモの凄さが印象的でした。あのときは、コントラバスが10本でした。でも今日のバイエルンは、通常の8本で同じような凄みのある下支えをしています。そして、管楽器群の力強い、自信に満ちた音は、やはりメータの指揮だからでしょうね。コントラストは、ヤンソンスの方が合ったと思いますが、その最小のピアニシモが無い代わりに、より大きなフォルテシモが鳴り渡るのです。指揮者の影響がどれほど大きいのかを感じました。また、サントリーホールでは、器が小さいので10本のコントラバスは、日本のオーケストラでは必要でしょうが、きょうのバイエルンでは鳴りすぎるとさえ思いました。
幸せな時間は過ぎて、「英雄の生涯」も終わりました。素晴らしい演奏でした。バイエルンのオーケストラのメンバーもお互いの健闘を祝しています。メータの幸せそうな顔も忘れられないでしょう。
万雷の拍手を受けて演奏されたアンコールは爆発ポルカでした。
やはりバイエルンは素晴らしいオーケストラです。
by TANNOY-GRF
| 2018-12-05 06:58
| 演奏会場にて
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