2018年 12月 07日
週末は上野にメジューエワのドビュッシーを |
先週末の土曜日はもう12月に入っていました。相変わらず暖かく、昼過ぎに出かける時に、夜になったら寒くなるかもと、薄いセーターを上着の下に着てきましたが、電車の中では暑くなって困りました。三日前の北海道も、異常なぐらいな暑さでしたから、いよいよ地球温暖化の影響が出ててきたようです。
今日は待望のメジューエワのドビュッシーです。椀方さんがメジューエワを一回も聴かれていないと言うことなので、関西地方の琵琶湖の演奏会をお薦めしていたのですが、その時の演奏曲目が、没後100年記念のオールドビュッシーのプログラムでした。メジューエワの最初のCDがドビュッシーだったこともあり、私もドビュッシーを実際に聴いてみたいので、今日の公演を探し出し随分も前に購入しました。
その後、椀方さんが急用で行けなくなったという連絡を受けて、思い出してこの演奏会のチケットを確認したところ、発券用のメールが見つからず、焦りました。メールで購入する場合、手続きの途中で、手続きを中断するときもあるからです。しかし、メジューエワの演奏会をやめることはないので、焦ってまた申し込んだのが10月頃でした。
先週の出張前に家人から、今週末はチケットが郵便で送られている上野の演奏会だから、忘れないようにといわれました。
えっ!郵便で送られている?
それでコンビニ発券用のメールがなかったのだとようやく納得しました。老人力もますます磨きが掛かってきています(苦笑)。折角だから家人も誘ってみると、その日は、上野で展覧会を見てそのあと六義園のナイトショーで紅葉を観に行く予定だそうです。無理言って、フェルメールと夜の紅葉鑑賞の間にメジューエワの演奏会をいれてもらいました。食事付きです。家人は随分と豪華な週末になったようです(笑)。
そんなわけで、別々の席で聴いたわけですが、前から七番目のJ列は同じでした。しかし、メジューエワ来日20周年記念の三回の公演は、前から二列目と三列目でしたから、四列下がるだけでピアノの音が随分と違うと演奏が始まって気がつきました。音が来ないのです。
ドビュッシーの曲にはピアノの選定も大切な要素です。琵琶湖の時は、1927年製のエラールを選んだようです。今回は1922年製のNYスタインウェイです。どちらも時代背景は合っていますので、期待してきたのですが、音が小さい、冴えがない、和音の響きが薄い!冒頭の曲はそういう曲でもあるので、まだ彼女の調子が出ていない所為なのかと、しばらく聴いていましたが、どうもぱっとしません。期待の「沈める寺」まで来て、今日の演奏は今までの中で一番つまらないと感じました。彼女らしい気迫が表れないのです。
めずらしいこともあります。今日で彼女の演奏会は6回目ですが、ここまではっきりしない演奏も初めてです。前回がリストとラフマニノフ、その前がショパンでした。三回連続の上野での公演でも、最初のベートーヴェンの前半も少し音がずれていた記憶があります。彼女の演奏には正確な音のチューニングが必要です。それはわかっているのでしょうが、毎回、第一部での音が少しズレ気味なのも気になります。
古楽器の所為だからでしょうか?それならば管理している側でしっかりと音を合わせて貰いたいと思うのです。もっとも、ドビュッシーの前奏曲集の第一巻は、第二巻の濃密な構成とは違って、風が吹くような曲でもありますから、ショパンやラフマニノフのような力は入っていません。それでも、第一部だけ聴いていると、彼女の調子が上がらない所為かとも思いました。また、このところの一年間で四回も聴いてきたため彼女の演奏スタイルに飽きてきたのかとさえ思っていたのです。印象は、皆同じで、家人もヤマハホールの時の演奏とは随分と違うと印象を語っていました。
ところが、第二部の「映像」の第一集が始まるとその印象が変わり始めました。「映像」の第二集になると、ようやく彼女本来の響きが出てきました。左手の弾き方が、音があってきたのか柔らかく、奥行きのある音を出し始めたのです。二部最後の「喜びの島」になると、ドビュッシーの音の整合性というか、響きの調和というのか、音の純度が上がってきました。
二回目の休み時間でも、そうとう調律を追い込んでいました。それだけ、ずれるのなら、もっと弾き込んで音の安定性が出てから演奏会を始めて欲しいと思います。これは、ピアノを貸し出している会社の責任です。
第三部の前奏曲集第二巻は最初の「霧」の音からして違います。やわらかく散らばる分散音が霧の柔らかさを現し始めました。次の「枯葉」の和音も、ヴィーノと妖精のいきいきとした旋律も浮かび上がってきました。そうで、これがメジューエワのドビュッシーですね。
そのままどんどんと加速して、ふかみとダイナミックさも増し、最終局の「花火」は見事な演奏でした。演奏に乗ったときの彼女は、まったく超人的な境地に入るのです。この一曲を聴けただけでも、今日も来て良かったと思いました。
アンコールの二曲目は、「月の光」でした。花火で燃え上がった内部の炎をみずから沈めていくような滋味深い響きが出ていました。良かったです。
会場の外に出てもまだ暖かく、和風洋食屋さんで夕食をとった後、六義園に行く家人と別れて、大江戸線でのんびりと新宿まで戻り、今日は暖かいので、手前の新高円寺で降りて、近所からどんどん姿を消してしまった本屋さんに寄り、新刊書を探そうとしましたが、阿佐ヶ谷にあった大型店ほどの品揃えはないので少しがっかりしました。阿佐ヶ谷でも四軒あった新刊書をおいてある本屋さんは一軒だけになりました。
淋しいですね。
日時:2018年12月1日
場所:東京文化会館小ホール
ピアノ:イリーナ・メジューエワ
第1部: 前奏曲集 第1巻
第1曲 デルフィの舞姫たち
第2曲
第3曲 野を渡る風
第4曲 音と香りは夕暮れの大気に漂う
第5曲 アナカプリの丘
第6曲 雪の上の足跡
第7曲 西風の見たもの
第8曲 亜麻色の髪の乙女
第9曲 とだえたセレナード
第10曲 沈める寺
第11曲 パックの踊り
第12曲 ミンストレル
《休憩》
第2部: 映像 第1集
水に反映
ラモーを賛えて
運動
映像 第2集
葉ずえを渡る鐘の音
そして月は廃寺に落ちる
金色の魚
喜びの島
《休憩》
第3部: 前奏曲集 第2巻
第1曲 霧
第2曲 枯葉
第3曲 ヴィーノの門
第4曲 妖精は良い踊り子
第5曲 ヒースの茂る荒れ地
第6曲 風変わりなラヴィーヌ将軍
第7曲 月の光がふりそそぐテラス
第8曲 オンディーヌ(水の精)
第9曲 ピックウィック卿を讃えて
第10曲 カノープ
第11曲 交代する3度
第12曲 花火
《アンコール》
ピアノのための12の練習曲 から 第11番 変イ長調
ベルガマスク組曲から 第3曲 月の光変ニ長調
使用楽器:1922年製 NY STEINWAY "Art-Vintage"
by TANNOY-GRF
| 2018-12-07 11:02
| 演奏会場にて
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