2019年 03月 14日
一年半ぶりの進化 パグ太郎さんとの実験 ① |
きっかけは、先月の横浜のMさんが、夜香さんと来られたときの感想から始まりました。コンサートホールのような音は出しているのですが、それだけではなく、ホールの高さや奥行きを再現してほしいと言われました。そのときは、静けさばかり追うのではなく、演奏会場の暗騒音や空調の音などを合わせて再現できたら、臨場感も増すのではないだろうかと思いました。
コンサートホールから出てきたときのホワイエの狭さ、人々の話し声、そこからホールに入ったときの空間の大きさ、広さ、天井に反射してくる音などの再現です。引き算ばかりではなく、雰囲気の足し算も加えてみようと思ったからです。
夏、クーラーが動いているとき、かすかな騒音が聞こえますが、音楽と関係ない音は、自然に除外して聞いていくのでしょう。最初は気になる騒音も、だんだん同化していき、わからなくなっていきます。どこかで実験をしてみようと思いました。
それと同時にMさんから言われたのが、上の手法とは全く違う違うアプローチですが、特にウィーン・フィルのムジークフェラインの会場では、音が天井から降ってきます。このような響きはほかの会場ではあまりありません。天井からの反射や壁から反射音ですね。また、アムステルダムのコンセトヘボウも独特な響きで、レコードでの音を彷彿とさせる希有なホールです。ベルリンフィルハーモニーやサントリーホール、ミューザ川崎ような、ワインヤード式のコンサートホールでも、天井に反射板が設置されています。
家の部屋は、CDやレコードに録音されている、微少の残響音を元のように再現して、あたかも会場にいるような音に包まれる装置ですが、それをマルチチャンネル方式ではなく、通常の2CHのステレオで再現しています。
部屋の中央付近に設置された、無指向性のDDDユニットを使用した中音以上の音と、300Hz以下の低音は、同相で前後に放射されるているので、全方向に音が放射されています。それは、あたかもステージ上のオーケストラの楽器が、全方向に拡散されて、立体的な音場を作るように、その音場を二次元ではなく奥行き方向も再現する、3次元のサウンドになっているのです。
コンサートホールでオーケストラや、楽器の音を聞いたことのある人は、聞き慣れた音ですから、音を聞くとステージ上の音を再構成できるわけです。耳は、とても精巧な立体音響を聞くことができるマイクです。同じく二つある目や耳は、到達する画像や音像の微妙な差信号を脳に送り込むと、人類が人間になる前から完成している、目と耳の差で、立体像を再構成する本能で判断しているのです。
その音楽を聴いているのは、聴いている人の「脳」です。その人の経験している音だけが聞こえてくるのです。同じ音を聴かれても、何を聴かれているかは、やはりその人の経験の中にある音なのです。昔はレコードを通じてしか音楽を聴けませんでした。私が幸運にもムジークフェラインの音に接したのは、1978年、三十代になった頃です。レコードとはまったく異なった、幽玄の響きを聞いた衝撃は忘れられません。
そして、何回も通ったコンセルトヘボウの音が、私のイメージの原点です。はじめて、コンセルトヘボウに行ったとき、、余りに聞き慣れたPHILIPSのレコードと同じ音がするのに驚きました。GRFやESL57で聴く音が、本物でもしたことが驚きでした。
ときどき錯覚するのですが、SPから出てくる音は、皆同じように聞こえているはずだと、、、。例え、目の前を神様が通っても、その人が神様だと知らなければ、見えないのです。混雑する大都市の大きな駅の構内では、何万人もの人とすれ違います。その中から、どうやって友人が見つけられて、沢山の知らない人の顔はまったく忘れ去るのでしょうか?・・・その中から、どうやって友人が見つけられて、沢山の知らない人の顔はまったく忘れ去るのでしょうか?
目というレンズは見ています。ただその像は、過去に見た自分の記憶と一致しないだけです。耳という、マイクロフォンも全ての音を拾っています。ただ、あなた自身の脳が、それを良い音だと感じないのです。記憶にない音だからです。演奏会場でも、ラジオでもレコードでも、一度でも、生の演奏の実体験や媒体、手段で、感動した経験が無ければ、心の琴線に触れないまま、共鳴しないまま、音は消えていきます。
幼少の時のラジオや蓄音機の出会い、初めての演奏会の驚き、パレードを誇らしげに行進する音楽隊、そして、本当に素晴らしい演奏家での、言葉では表せない大きな感動!それらの記憶が、その感動を再現したいという希求が、あなたの部屋の装置を良い音で鳴らす、原動力なのです。
その意味で、その人の音楽体験その物が、その人の装置から聞こえてくる音なのです。本棚を見れば、その人がどのような人だと分かるのと同じように、レコード棚を見ればその人がどのような人か分かるのです。
と、2011年の記事のコメントで書いたことがあります。その思いは今でも変わっていません。と言うことは、家で聴かれている音も、聴かれる方の経験や思いで、全く違うところを聴かれていると感じることもあるからです。
今回のMさんの感想とご提案は、私の中でもストンと納得できるモノでした。それは先日、のびーさんが来られた次の日の事でした。仕事をしている時も、その思いが膨らみ、久しぶりにオーディオの実験を行う気合いが満ちてきました。しかし、その日は、仕事が忙しくなかなか時間が取れません。夜食事が終わると、そのままソファーで寝てしまいました。
気がついたのは11時過ぎです。少しはエネルギーが出てきたので、思い切って一年半も前に考えていたことを実験しました。その実験用に購入してあったTroubadour 40を車庫から運び、後方のGRFの上に置いてみました。これは、80+TW3を開発していたときから、ホール感を出すために実験しようと思って、取ってあったのです。
結果は、思った通りのホールの音が出てきました。高さも奥行きも出て、ステージの位置がはっきりします。何よりも、低域の音の焦点が合ってきました。見えていなかった暗闇の中から、巨大な熊が姿を現してきたような感覚です。深夜ですから音量も小さく、ピントの調整も無しで繋いだだけでしたが、戦慄が走りました。
一連のSP開発の切っ掛けになった、コントラバスの最低域が、ようやく見えてきたのです。一年半も無駄に時間を費やしてしまったと、同時にとても後悔が出てきました。70を過ぎた身には大きな時間です。また、必要な時間だったとも思いました。
11時50分に音が出たのに、12時半には驚きと感動で開発している大山さんと、DDDユニットのSPを使われているご近所のパグ太郎さんにメールを送っていました。
パグ太郎さん
忙中ですが、深夜になって時間を作り、いよいよ実験を始めました。DDDのユニットだからこそ出来る世界です。T-80+TW3から後方に置いた40に音のブリッジが出来ます。ステージがはっきりと出現して、ホールの奥行きが拡がりました。
調整はもちろん微妙ですが、新しい扉を開けたようです。残り時間が少ないというのにこの一年半、遊んでいた気もします(汗)ぜひ、お仕事帰りにでもお寄り下さい。
GRF
つづきます・・・
by TANNOY-GRF
| 2019-03-14 21:40
| 来たり
|
Comments(3)

相変わらず旺盛な原音追求の試みには敬服いたします。写真から拝見すると何となく収録時のPhilips方式を連想します。アンビエンスマイクのスピーカー版ーアンビエンススピーカー配置でしょうか。
部屋の大小にかかわらず、臨場感や音場情報が得られるような感がします。さらなる追求実験を期待しています。
また、多くのDeccaのオペラ音源をお持ちなので、Decca-Tree方式をシュミレートしたスピーカー配置も試されてはいかがでしょうか。
部屋の大小にかかわらず、臨場感や音場情報が得られるような感がします。さらなる追求実験を期待しています。
また、多くのDeccaのオペラ音源をお持ちなので、Decca-Tree方式をシュミレートしたスピーカー配置も試されてはいかがでしょうか。
Cさん ありがとうございます。Deccaツリーの配置となりますと、今回の配置の逆になりますね。手前が高く後方が低くなるのでしょうか?
今回の実験は、DDDユニットをお持ちの方は、是非トライしていただきたいですね。
今回の実験は、DDDユニットをお持ちの方は、是非トライしていただきたいですね。

GRFさん、こちらでは実験できる環境にないのでいささか無責任になることをお許しください。
Philips方式、Decca-Tree方式いずれも無指向性マイクでの収録ですのでDDDユニットの360°放射パターンは最適なような気がします。
Deccaの場合、高低よりも左右メインスピーカーを寄せてセンターに配置するのはどうでしょうか。
Philips方式、Decca-Tree方式いずれも無指向性マイクでの収録ですのでDDDユニットの360°放射パターンは最適なような気がします。
Deccaの場合、高低よりも左右メインスピーカーを寄せてセンターに配置するのはどうでしょうか。