2019年 09月 16日
無指向性SPの音場は 1 |
ご承知の通り、GRFのある部屋では、無指向性のSPを使って奥行きのある三次元の音場の再生を目指しています。この部屋は、造り付けのレコード棚や飾り棚があり、実質上は24畳ぐらいでしょうか。SPは後ろの壁からは2.4メートルほど、左右の壁からは1.4メートルぐらい離れていて、後ろのコーナーにはGRFが置かれていますが、16畳分の空間の中央と言うことになります。高さは、2.8メートルで、吸音材が天井裏にも50センチ詰まっていますので、部屋で発生した音は、最終的には天井で吸収されていきます。


上の写真は、前方の景色をカメラを数センチ横に平行移動させて二枚撮ります。平行法は、右で右側の写真を、左で左側の写真を並行で見ます。交差法はその左右の写真を入れ替え、右の目で左の写真を、左の目で右の写真を見つけめると、中央に立体化された像が出現します。平行法の方が、自然ですが、立体化してくるのに時間が掛かります。中央にはがきか何かでついたてを建てて、左右の写真を別に見ると立体化しやすいです。
その空間で、ホールで収録した会場の音場情報を含んだ録音をききますと、ソファーから見ると前方空間の中央にあるSPの後方に音場が展開します。無指向性SPが再現する音場は、三次元に展開して、前面だけにSPユニットが付いている普通のSPが出す音場とは全く違う立体的な奥行きが出てきます。
よく、正確なステレオを聴くためには、左右のSPの中央に座って聴くと、左右のバランスがとれたステレオ空間が出てくると言われます。家のSPでは、HartleyやQuad57がそうです。特にハートレーの場合は、左右を5メーター以上に拡げると、その広い空間に目一杯に音場空間が広がり、低域の充実度もあり、あたかもコンサートホールでゆったりと音楽を聴いている感覚に満たされます。
その時は奥行きも感じられます。昔のディズニーのアニメ映画のように、背景が舞台のト書きで書かれた小道具のように、平面のレイヤーが何層にも見えます。すなわち手前にある風景と、奥にある風景では、カメラのレンズから見ると動いているスピードが違います。手前の景色は大きく動き、遠くの背景、山やお月さんはそれほど動かないのです。でもよく見るとその山も、お月さんも紙に書かれた絵のように平面で立体的ではないのです。
ステレオ写真をご覧になったことがありますか?確かに立体的には見えるのですが、その前景、中景、背景が奥行きがなく平面に展開しています。立体ですが、自然の立体ではなく前後を強調した画面です。

楽しい立体写真さんのブログから
上の写真を交差法で見ると、下の緑が一番手前に見えます。その上の桜の枝も立体的に被さり、東屋がその向こうに浮き上がります。一番遠景は遠くの高い木です。こうして二枚の写真を見ると、ただの平面的な写真が並んでいるだけですが、交差法で見るとこの二つの中央に立体的で、色のコントラストも、空気感さえも漂わせた写真が浮かび上がってきます。左右の写真を入れ替えると平行法で見れます。
初めてステレオ写真を見たときは驚きました。立体写真は、写真が出現した頃から有りました。航空写真を連続して並べると実体視が出来ます。最初は立体視するのに、コツが要りますが、一旦習得してしまえば、専用の眼鏡がなくとも立体化が出来ます。

そうして浮かんできた写真は、たしかに奥行きを感じますが、ハートレーの時のように中央の一点からの静止像になります。たとえば、ソファーで、左右に一人分ずらすと、右に行けば右側が大きくなり、左に行けば左側が大きく聞こえます。
しかし、無指向性のSPが出現させる三次元のステレオ音場は、どこに移動しても、音が出ている位置が動く事はありません。その体験は、家に来られた方は皆さん経験されています。会場で席を替われば聞こえてくる景色は変わりますが、音が出てくる位置は変わりません。でも、実際にその音を聞かれる前は、想像も出来ない音です。目の前の会場が出現するからです。
私が、しばらく聴かなかったときに、左右のSPの位置を微調整するのは、厳密にあった音は、たとえ振動板の厚さ分、チタンは0.025ミリずれても、音が解るからです。0.025ミリの差を実際に調整で詰めることは出来ませんが、0.1ミリぐらいの差なら可能です。そして、そのわずかの差で、音のエネルギーや音場、音楽の奥行き、ゆったりと流れる時間も変わるのは、家に来られた方々の共通な驚きです。調整をしている私自身、毎回そのわずかな位置の差が、出現する音場の大きさの違いに驚き、人間の持つ能力の精緻さに感動しています。
コンサートホールで、点音源で音が出てくる楽器は、たとえラッパが前を向いている状態でも、音は全方向に広がっています。その楽器類から発生した響きが、ハーモニーになって空中で合成されて、会場を響きで満たすのです。その微妙な音の差、音量差と時間差を、人間の耳は、数センチの間隔しか離れていないのに、正確に音を聞き分けるのです。その奇跡のようなメカニズムを知れば知るほど、オーディオの深さを感じ、生命の神秘を感じざるを得ません。
by TANNOY-GRF
| 2019-09-16 11:15
| オーディオ雑感
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