2019年 10月 02日
アルゲリッチ・酒井茜 ピアノデュオ |
秋の音楽シーズンの二日目は、月曜日の夜、武蔵野小ホールで開かれたベルリン古楽アカデミー・オーケストラのバッハとヘンデルでした。六月に樫本大進のソロで、ベルリンフィルのメンバーのベルリン・バッハ・ゾリスデンを聴いてきましたが、その時の現代楽器でのノンヴィブラート奏法ではなく、本格的なピリオッド楽器による演奏も聴いてみたいと思って申し込みました。

ゆったりとアルゲリッチさんと酒井さんが入場してきます。歩きは遅いですが、とても77歳とは思えません。最初の曲は連弾で、モーツァルトの4手のためのピアノソナタです。低音部をアルゲリッチさん、高音部を酒井茜さんが演奏します。この二人はしっかりと特徴が違い、スピード速く、切れ味のいいのが酒井さんで、鉈で断ち切るような凄い響きがアルゲリッチさんです。しかし、16歳の時のモーツァルトのお姉さんとの連弾を目的に書かれた曲には、アルゲリッチの特徴を活かすようなパートはなく、響きも弱く、物足りなさも感じました。
ところが、二曲目のプロコフィエフ・プレトニョフ編曲の二台のピアノのための組曲「シンデレラ」はまったく変わりました。この曲は、編曲者のプレトニョフとアルゲリッチとのSACDは私の部屋の音調整用の定番になっています。

耳だこになっているほど、聞き込んでいる曲ですから、演奏の差はすぐにわかります。酒井茜とプレトニョフの差はやはり大きいです。力強さが違います。高域の切れは素晴らしいですが、低音部が活躍する右側のピアノはプレトニョフの様にはいきませんが、これはこれで素晴らしい演奏です。アルゲリッチ側は、先ほどのピアノと同じ楽器なのかと思うほど違う響きです。左手の破壊力は、77歳とは到底思えません。二台の響きが、CDより軽いのは、演奏者とホールの差だと思っていました。
会場に入ると、低音楽器のコントラバスのヴィオローネとチェロのヴィオラダガンバとチェンバロの音程を合わせていました。かなり難しそうです。低い音が会場に響き渡り、演奏が期待されました。曲目は、J.S.ではなくいとこのJ.B.バッハの管弦楽組曲でした。聴いたことのない曲だなーと思っていました。面白い曲ではありませんでしたし、アンサンブルもバラバラに聞こえました。
C.P.E.バッハのオーボエ協奏曲は、レフラーのバロックオーボエが良かったです。二曲とも先ほど聞いていた低音楽器の音が聞こえてきません。チェンバロの小さな音はヴァイオリンの中に埋もれて聞こえてきません。むしろリュートの音の方が響いていました。オケの音は全体にピッチは低いけど、音色の高さにはやはり疲れました。自分が聴かなかった分野であることを再認識しました。自分が、ロマン派を中心に聴いている理由も、よくわかった気がします。
さて、三日目は待望のアルゲリッチです。アルゲリッチは親日派ですね。二十年以上も続けている大分別府の音楽祭も、最近始まった広島の音楽祭も、同時に全国各地で行う演奏会も、毎年開かれています。ソロでの演奏は25年ぐらいやっていなくて、必ずほかの演奏家とのコラボレーションを行っています。あるときは、ヴァイオリンソナタ、あるときはチェロソナタ、ピアノ協奏曲、室内楽などです。
今回は、待望のアルゲリッチと酒井茜のピアノデュオで、プロコフィエフの「シンデレラ」とストラヴィンスキーの「火の鳥」です。会場も久しぶりのサントリーホール。地下鉄を二本乗り継いで行きます。30分ほど早く着いたので、開場までの時間六本木一丁目駅二隣接するビルのしたのコーヒーショップに入りました。注文するとお店で飲まれますか、お持ちかえりですかと訊かれました。お店で時間つぶしするために店内でと答えたとき、あ!そうか今日から消費税が違うのだと気づきました。ちなみにと訊くと、持ち帰りと店内飲食では6円違うそうです。しかし、ややっこしいですね。来年までの増税感を薄めるためだけの煩雑さで、レジを買えたり打ち込み時に区別したり、お店に多大な負担を与えています。
街の定食屋さんや家族経営のお店では、その煩雑さがいやでやめるところも続出しています。諸費税を乗せられない定食やさんなどのお店は、結局その分を負担しなければなりません。少ない売り上げから2%分、お代官様に取られるのです。黄門様ならなんと言うでしょう!
広場には会場前のファンファーレが鳴っていました。開場自体は時間通りでしたが、ホールの中では、最後の音合わせをしているのでしょう。15分前まで内側のドアは開けられず、ホール内の通路に人は溢れかえりました。サントリーホールは、特に二階のホワイエが狭いのが難点ですね。待っていると、ひさしぶりに、O画伯とお会いしました。席もすぐそばでした。
ピアノの調律はようやく終わりに近づいています。響きは透明ですが、少し線が細い感じもしました。でも調律師とアルゲリッチでは、まったく音が違いますから参考にはなりません。対面のLB席には、パグ太郎さんとOrisukeさんが並んで座られていました。白いシャツのがっしりとした体格で、日焼けした顔が見えないのが、Orisukeさんです(爆)。


それにしても、凄い演奏です。第九曲目の魔法が解けて、カボチャの馬車もすべてが崩壊していく様は、アルゲリッチしか演奏できないかもしれません。プレトニョフは指揮者として日本に良く来ています。アルゲリッチとスケジュールが合えば、ぜひ聴いてみたいですね。
休み時間にOrisukeさんが、右側のピアノは何でしょうかと訊いてきました。蓋が取ってあってわかりにくいからです。プログラムにはKAWAIの宣伝があったので、両方ともKawaiでは無いかと言われました。確かに、スタインウェイの低域と違う響きがしています。会場に戻ってよく見ると、右側のピアノもKawaiでした。高域の切れ味は素晴らしいのですが、低域の混沌とした響きがすっきりと整理されるのが違いますね。
休憩後は、ストラヴィンスキー自身の編曲になる、『春の祭典』でした。今回は、アルゲリッチが右側のピアノで指使いがよく見えます。彼女の奏法はどんなに大音量でも、指は延びたままです。ホロヴィッツと同じですね。指を曲げて打ち下ろすのではなく、指の腹でコントロールしているのです。驚きました。音量の差は、タッチするスピードの差なのでしょうか?ストラヴィンスキー特有の不協和音がオーケストラよりピアノ版の方がより鮮明に解ります。ピアノからオーケストラのいろいろな音色が聞こえてきます。
堪能しました。長い曲なのですが、あっという間に終わりました。会場中割れんばかりの拍手です。何回か呼び出された後、二曲のアンコールを連弾で演奏しました。ラベルのマ・メール・ロアから第五曲と第三曲めからでした。どちらも柔らかくストラヴィンスキーとは対極の音楽です。大満足の演奏会でした。
演奏会終了後、近くのレストランで、大満足の感想会を行いました。演奏会を批評するような発言は勿論なく、三人とも世紀の名演を見た満足感で一杯でした。アルゲリッチはどこまで行くのでしょうか?彼女の演奏に毎年接することが出来る、日本の幸せも感じました。
Orisukeさんは、明日のあさから仕事で、これから車で三時間以上走って帰られるそうです。そんなスケジュールの中を良く来られたと驚き、感心しましたが、今日の演奏を経験できたのは、一生の宝物ですね。
by TANNOY-GRF
| 2019-10-02 16:12
| 演奏会場にて
|
Comments(4)

GRFさん、パグ太郎さん
昨日は本当にありがとうございました。私としては、仕事の無限ループでメロメロになっているところをお二人に救出された感じでして、本当に感謝しかありません。無事、朝の三時に新潟に辿り着きました。
それにしても、アルゲリッチの怪物振りには唖然とするしかありませんでした。ホロヴィッツにしても、リヒテルにしても、バックハウスにしても、晩年は打鍵の強さやリズムの切れには明瞭に衰えが見られ、それを音楽性でカバーする滋味深い録音が多くを占めています。例外はルビンシュタインのブラームスくらいだと思いますが、今のアルゲリッチはそれすら超えていると感じました。今まで実演で聴いたことのない凄まじいうねりを伴った低音と、彼女特有の一瞬で聴衆の心を鷲掴みにしてしまう滑らかで情熱的な音の流れにただただ驚嘆していました。パグ太郎さんが「あの音は大砲みたいだね」と仰っていましたが、同感です。もしくは大リーグの野球中継でみる「マイク・トラウトの場外ホームラン」のようなものでしょうか。バリバリのの第一線のはずの酒井茜が手のひらで転がされている感じでしたから、次元が違いましたね。
とにかく、あのストラヴィンスキーが面白すぎてあっと言う間に終わってしまったのは我ながら驚きでした。もともと、私は展覧会の絵もオケ版よりピアノ版が大好きなのですが、春の祭典のピアノ版を最高の演奏で楽しめたのは本当に幸運でした。会場でお土産に買ったルガノ・フェスティバルのライヴ録音は、酒井茜のパートが大きめにミックスされており、相対的にアルゲリッチの高潮のような低音は控えめになっているようです。ライヴとしては良い録音だと思います。
取り急ぎ、お礼まで。
3月のクレーメル&アルゲリッチ、何とかして行きたいです!
昨日は本当にありがとうございました。私としては、仕事の無限ループでメロメロになっているところをお二人に救出された感じでして、本当に感謝しかありません。無事、朝の三時に新潟に辿り着きました。
それにしても、アルゲリッチの怪物振りには唖然とするしかありませんでした。ホロヴィッツにしても、リヒテルにしても、バックハウスにしても、晩年は打鍵の強さやリズムの切れには明瞭に衰えが見られ、それを音楽性でカバーする滋味深い録音が多くを占めています。例外はルビンシュタインのブラームスくらいだと思いますが、今のアルゲリッチはそれすら超えていると感じました。今まで実演で聴いたことのない凄まじいうねりを伴った低音と、彼女特有の一瞬で聴衆の心を鷲掴みにしてしまう滑らかで情熱的な音の流れにただただ驚嘆していました。パグ太郎さんが「あの音は大砲みたいだね」と仰っていましたが、同感です。もしくは大リーグの野球中継でみる「マイク・トラウトの場外ホームラン」のようなものでしょうか。バリバリのの第一線のはずの酒井茜が手のひらで転がされている感じでしたから、次元が違いましたね。
とにかく、あのストラヴィンスキーが面白すぎてあっと言う間に終わってしまったのは我ながら驚きでした。もともと、私は展覧会の絵もオケ版よりピアノ版が大好きなのですが、春の祭典のピアノ版を最高の演奏で楽しめたのは本当に幸運でした。会場でお土産に買ったルガノ・フェスティバルのライヴ録音は、酒井茜のパートが大きめにミックスされており、相対的にアルゲリッチの高潮のような低音は控えめになっているようです。ライヴとしては良い録音だと思います。
取り急ぎ、お礼まで。
3月のクレーメル&アルゲリッチ、何とかして行きたいです!
Orisukeさん
素晴らしい夜でしたね。この演奏会は、滅多にない大満足の演奏会でした。先にCDを聴いている場合、実際の演奏では、自分のイメージに合わないときもありますが、今回の演奏は、完璧でした。
ぜひ、来春のクレーメルとアルゲリッチも行きたいですね!
素晴らしい夜でしたね。この演奏会は、滅多にない大満足の演奏会でした。先にCDを聴いている場合、実際の演奏では、自分のイメージに合わないときもありますが、今回の演奏は、完璧でした。
ぜひ、来春のクレーメルとアルゲリッチも行きたいですね!

GRFさん、orisukeさん
先日は有難うございました。
終演後の感想会で、この三人が何も言えないという状況になるとは、驚くやら、呆れるやら、笑えるやらでした。それだけの圧倒的な力を持った演奏だったということでしょうね。次の機会も楽しみです。
先日は有難うございました。
終演後の感想会で、この三人が何も言えないという状況になるとは、驚くやら、呆れるやら、笑えるやらでした。それだけの圧倒的な力を持った演奏だったということでしょうね。次の機会も楽しみです。
パグ太郎さん
本当ですね。何にも言えね〜〜状態でしたね。アルゲリッチがいかにすごいかが、実感で分かりました。若いときよりどんどんすごくなっている様です。酒井さんもすごかったですね。
本当ですね。何にも言えね〜〜状態でしたね。アルゲリッチがいかにすごいかが、実感で分かりました。若いときよりどんどんすごくなっている様です。酒井さんもすごかったですね。