2019年 12月 28日
H氏別邸訪問記 夜香さんのご感想「徹底しないと見えない世界」 |
先日、GRFさんと一緒にHさん宅を訪問した。 非常に思うことの多い訪問であった。
リスニングルームは倉庫の中に建築されていた。倉庫 in ハウスである。最初話を聞いたときには何を言っているのか理解できず、実物をまのあたりにしてようやくそれがわかった。ハウスメーカーの試験室などと同じである。それをリスニング目的で実現したと、そういうわけだ。
求めたのは超絶のSN比。そのためにできる限りのことを実行した部屋であり、しかし、よくあるリスニングルームのように、いかにも防音然とした内装にはなっていない。いわゆるオーディオ用のグッズは皆無であり、基本的な構造と素材を吟味し、つくりあげた空間なのである。だから、居心地はすこぶるよく、それでいて「シーン」という静寂の音が聴こえる。
装置はたくさんあった。おびただしい機器がその空間にあり、少なくとも3組の装置が常設されていた。
今回はメイン装置のトロバドール80を中心とした装置を聴かせていただいた。送り出しはEMM、プリとDACはMolaMola、パワーは是枝式とSD-05、スピーカはジャーマンフィジックスのトロバドール80と大山さんデザインのウーファーを組み合わせたものが二組。そう、GRFさんのシステムを更にスケールアップしたような仕様である。
特に奥に鎮座するシステムのウーファは以前某所にあった46cmウーファーをアイソバリック方式でツインドライブするシステムであり、それをスーパーウーファーのように50Hz以下でのみ追加し、トロバドールは前後二組をレベルを吟味して同時に鳴らすというもの。 メカニカル式のアンビエンス発生方式である。
装置ももちろん半端なものではないが、この空間の主役はやはり空間そのもの、つまり部屋である。ナチュラルな響きと徹底した高強度、高SN設計がもたらす世界を体験するための、ある種実験室のような空間と感じた。
早速、音を聴かせていただく。
音量は大きくない。私がいつも聴いている音圧からすれば半分以下。いまどきなら小音量と言っても良いレベルである。しかし、そんな音量にも関わらず、一切の音が鮮明に聴こえる。例えばシュアーの遮音性の高いイヤホンであれば、音量を上げずともディティールが克明に聴こえる、それと全く同じことがスピーカ試聴でも実現されている。
変形の3ウェイとも呼べるスピーカシステムからは、ユニットの位置を全く意識させない、豊かな音場とローエンドまで伸び切ったワイドレンジを聴き取ることができる。クラシックを中心に聴かせてもらったが、弦の響きなどほとんどコンサートホールの音である。圧倒的にしなやかで、しかし、そこには微細な毛羽立ちとも言えるディティールが克明に聴こえるのである。
最初は聴いたことのない楽曲ばかりだったから、まだ冷静に聴いていられたのだが、カンターテ・ドミノが演奏された途端、戦慄が走った。
録音されたであろう教会の中の空間が目の前に現れたのである。コーラスがこう並んでいて、オルガンがそこにあって、ソロボーカリストはここにいる。音色がナチュラルでなければ録音空間へのワープは不可能であり、それを簡単にクリアしているだけではなく、豊かな音場再現能力がリスナーの聴覚に錯覚を引き起こす。
このCDは持っていないマニアはいないだろうというくらいの、超有名なCDであり、私もこれまで何度このCDを聴いたかわからない。愛聴盤と呼べるものである。
この日、この空間で鳴った音は、過去経験したことのないカンターテ・ドミノであった。
演奏が終わりGRFさんに、「これは特別なCDに違いない。普通のカンターテ・ドミノで、こんな音がするわけがない!」と悪態をついてしまったが、それほど、認めたくない見事な音であった。
何度か後方のシステムをON/OFFしてもらったが、4組すべてのスピーカを鳴らしたほうが優れた音質であった。
良質のサブウーファを適切に組み合わせることで低音が豊かになるのは当然として、実は中高域が一層しなやかに豊かに鳴るのである。この空間においても46cmウーファはその責務を存分に果たしており、これのあると無いでは良さが半減、いや20dBくらい音質が落ちると感じた。大口径ウーファの空間支配力は、やはり絶大なのである。もちろん、それだけではなく、位置をずらして前後に配置された4本のトロバドール80の表現力の拡大も大いに貢献している。
この音は装置の選定とチューニングが重要なのはもちろんだと思う。しかし、今回感じたのは部屋の重要性。わかってはいたつもりだが、こうして現実を見せつけられると夢が広がる、というよりは絶望感をむしろいだいた。無いものねだりが頭をもたげてくるわけである。
この空間は音にすべてを捧げた空間であり、オーディオマニアの夢の実現の好例であることは疑いようもない。もっとも、よくある無味乾燥なリスニングルームでないのは前述したとおりで、親しみやすさもむしろある。だから一層、絶望感を抱くと、そういうことなのである。
徹底することで初めて見える、聴こえる世界を目の当たりにする。
ここはそういう空間なのである・・・。
夜香
夜香さん
感動的なご感想をありがとうございます。徐々に調子を上げていって、カンターテ・ドミノがなる頃には、コンサートホールや教会の中に完全にトランスポートされていましたね。コーラスが、空間でハーモニーになっていく様が聞こえました。これは、空間が正しく再現されていないとその美しい響きが出てきません。
クラシック音楽を聴くときに一番大事なのは、SN比です。それは再生される部屋ばかりではなく、録音された場所のSNも問われます。雑音に埋もれることなく、細部が再現されたとき、その会場に響いていた、音楽が再現されるのでしょう。PAを使ったPOPSやJAZZとは違った、微小な音の集合体であるクラシック音楽が再現されていると思います。
あいにく、この日は、Hさんはお仕事で、夜にならないと来られなかったので、お会いできなかったのですが、現在の音は、Hさんも大変喜ばれておられます。Hさんの希望が叶えられ、半年も掛けて丁寧に作られてきた特別な部屋を手に入れたHさんは、何を聴いてもその会場にたちまちワープする、この部屋の素晴らしさとオーディオの面白さに驚き、喜ばれています。
私の家の音を気に入られて、まずは同じ装置を入れて、さらに高く、大きな希望でこの部屋を作られ、スケールの大きな音を手に入れられた、Hさんの確信に裏付けられた決断と勇気、そしてその冒険心に畏敬と感動をおぼえます。コンサートホールを手に入れられたのですから。
by TANNOY-GRF
| 2019-12-28 17:20
| H氏の隠れ家
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