2020年 09月 08日
音場の話 1 |
最近、ここで使われている「音場とはなんですか?」というご質問がありました。「音場」という言葉を、しっかりと定義しないと意味や真意が伝わらないと思いました。最近、スクリーンを導入してサラウンドの実験をしていると、従来使ってきたクラシック音楽、とくにオーケストラの音場の意味を説明しないと誤解されると思ったからです。
クラシック音楽は、生の音を聞く芸術です。弦楽器の数や管楽器の本数も、曲によって編成が決まっています。オーディオでの再生はステージ上で演奏されるその「響き」を如何に、忠実に再現するかを問われます。周波数の範囲も、ヴァイオリンの最高音からコントラバスの最低音まで、6オクターブ以上の音程を再現します。
編成も小さな室内楽団ですと、第一バイオリンが8人ぐらいで、弦楽器が五部編成で、8・8・6・4・2の28名程度です。フルオーケストラだと、それが16人の16・14・12・10・8 の 60名の倍以上の編成になります。
それに管楽器が2管編成で10名程度、4管編成だと30名以上で、打楽器もいれると100名の大編成になります。その100名が、幅20メートル、奥行き約13メートルのステージの上に乗るのです。結構満員ですが、奥行きも結構あるのです。それらの大きな面積のオーケストラが、タイミングを合わせて、アンサンブルを構成し、あの大迫力の演奏を展開しています。
それらが、コンサートホールと呼ばれる、大きな箱状のホールでなるのですから、壁に反射して残響を付加します。オーケストラ自身から放射される音と、それらが壁に反射して、反対側のホールの奥へ数十メートル拡散していき、長い残響音を伴うのです。その音が、コンサートホール状で並んで、位置が決まります。その時、オーケストラが出して、その音がホールに響いている音の形態を、私の場合の「音場」と呼ぶのです。
PAを使わないで、コンサートホールに響いた音を、そのイメージを縮小するけれど、忠実に再現するとき音場が再生できます。ですから同じ編成の同じオーケストラだとしても、ホールが違えば違う音がします。
コンサートホールには、大きく分けて二種類のホールがあります。シューボックス型といって、四角い箱状のホールで、端にステージがあります。今ひとつは、ワインヤード形式と呼ばれる、ステージを客席が囲んでいる形状です。オーケストラの後ろには壁は無く、後ろに客席があるからです。サントリーホールやミューザ川崎、札幌のキララ、新潟のリュートピアなどです。最近はこの形式のホールが多くなりました。
シューボックス型は、オーケストラの後ろは壁ですから、音が反響しても客席方向に放射されます。一方のワインヤード型は、おとが拡散していき、残響の出方が違います。シューボックス型の方が特定の残響がつきます。その響きが良い場合、ウィーンのムジークフェラインとか、アムステルダムのコンセルトヘボウとかが代表例です。
ベルリンフィルハーモニーとか、サントリーホールなどのワインヤード型が今や主流になっているようです。この二つでは形成する「音場」が随分と異なります。そして、録音されたオーケストラには、今ひとつの「音場」形式があります。それは、協会や中規模の録音に使用する会場が狭い場合、客席の座席を外して、その場所にオーケストラが展開している場合です。ウィーンのソフィエンザールやロンドンのキングスウェイホールなどがそうです。その場合、ステージにオーケストラが乗っているわけではないので、客席に展開したオーケストラの上にマイクを吊し集音しています。その場合は、オーケストラの真上から収録していますから、その録音を聴くとオーケストラの中に入って聴いているような音場が出現します。私がよく聴いているクレンペラーのマーラーの七番などがそうです。
またソフィエンザールのDECCA録音のショルティ・ウィーンフィルのワーグナーもそうです。それは、コンセルヘボウのようなホール残響の向こうにオーケストラがあるのでは無く、真下に展開している録音ですね。
これらの三種類の録音形式により「音場」の形式も変わります。それらの違いが正しく再現するには、録音されたときと同じような環境で再現することです。演奏会場で、マイクで集音された音は、そのマイクから放射されるように再生すると、元の音場が出現するのです。
その時集音しているマイクが、単一指向性か無指向性かで出てくる音場は異なります。またSP前方に放射されているホーン型のSPか、私のように無指向性のSPを使うと録音された音場がそのまま再現されてきます。家のSPでは、タンノイの同軸型のホーンが45度の内向きで、通常SPの後方に展開する音場が、交差する前方に出現します。ホーン型は正面(平行法)では、音場の再生は難しいです。
また、QUADのESL57のような平面SPでは、音場は出てきません。同じQUADでもESL63になると、同心円状にディレイが掛かっていて、タンノイのような同軸音場を再現します。57では音場では無く、音色を楽しむSPです。これは会場の中で聴いているのでは無く、ドアを開いたとき聞こえてくる音です。平面SPの楽しみ方は、二つの平面に挟まれた空間から、あたかも平面が続いているように中央に平面SPが出現してモノラルのように充実してオーケストラの響きがすることです。「音場」は出現しませんが、大好きなサウンドですね。
by TANNOY-GRF
| 2020-09-08 12:03
| オーディオ雑感
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Comments(2)

いつも楽しいお話ありがとうございます。
QuadのESLですが、kikiqchanさんの真の音場では、音場が出るのではないですか?(対向法)
QuadのESLですが、kikiqchanさんの真の音場では、音場が出るのではないですか?(対向法)
コメントありがとうございました。kikiさんの対向型では、立体音が現れますが、私自身は追実験が出来ていませんでした。ブリロンの変わりのT4での実験の方がうまくいきました。ESLでは後方をどうするか、いろいろとあります。
私は平行法のESLの音の低音に大満足しています。DDDユニットのような全方位型は、対向法でもあり、平行法でもあり、交差法でもあるのです。そこが音場が楽に出る理由でしょうね。
私は平行法のESLの音の低音に大満足しています。DDDユニットのような全方位型は、対向法でもあり、平行法でもあり、交差法でもあるのです。そこが音場が楽に出る理由でしょうね。