2021年 07月 28日
Acoustic Taoさんの「無音」と「光」 |
先月、ハンコックさんのお宅でのOFF会で、Wilson AudioのWATTとPUPPYを分離してそれぞれ別々のパワーアンプで駆動した際、最も印象の良かったバランスにおいて、試しにPUPPYだけを鳴らしてみた。すると全く音は聴こえなかった。ユニットに耳を近づけてみても「無音」であった。しかし、WATTと一緒に鳴らすとその影響ははっきりと感じられた。
今日、GRFさんのリスニングルームでも同様な体験をした。PSDの特注サブウーファーは、ハンコックさんのお宅のPUPPY同様SD05で駆動されているが、それ単体で鳴らしてみても全く音が聴こえない。
しかし、 German PhysiksのトロバドールとPSDのサブウーファーにより組み合わされたスピーカーシステム全体で聴くと、後方に設置されたサブウーファーは、何かしら「魔法の粉」のようなものをスピーカーシステム全体の音に振りかけるのである。
広大な広さを有するGRFさんのリスニングルームのリスニングポイントに置かれた3人掛けソファに腰掛けた時に視界に収まる風景は、前回お邪魔した時と大きく変わっていた。前回はPSDのウーファーの上にトロバドール80が乗ったスピーカーシステムが1ペアあるというシンプルなシステムであったが、その後メインスピーカーから見て斜め後方のコーナーに置かれているTANNOY GRFの上にトロバドール40が1ベア追加された。
これによりもともと広大なエアボリュームを活かした広々とした後方展開の音場が後方にいくに従ってせり上がっていくような空間表現になり、より響きが豊かで空間の高さが出るようになった。そして、メインスピーカーの後方には、ユニットの口径が一回り大きくなり、それに従ってサイズアップされたPSDのサプウーファーが1ベア加わった。この1ペアの新たなサブウーファーがもたらす「魔法の粉」により、サウンドはよりリアルな方向に推し進められ、実際のコンサートホールの音の質感にぐっと近づいていく。
この「ホップ」「ステップ」「ジャンプ」といった三段活用のような進化の過程をマーラーの交響曲第4番の第2楽章を、セッティングをその進化の過程に合わせて変更していって3回聴くことにより、確認した。この複雑に進化したスピーカーシステム。さすがのGRFさんも調整には数ケ月の時間を要したようである。
進化の過程での「ジャンプ」にあたる新たなサブウーファーは、それ単体で聴く限り人間の耳には「無音」でしかない。しかし、無音である超低域エリアには、何かが潜んでいるようである。その何かは、音の基盤となる大切な情報なのであろうか・・・
その「何か」は、スピーカーシステム全体の位相が合っていることや、メインシステムとのバランスがしっかりと取れていることなど幾つかの条件が揃うと、目に見えない「魔法の粉」を噴出して、システム全体の音に「魔法」をかけるようである。「リアルなコンサートホールの音をリスニングルームに再現する」というテーマを追求し続けてきたGRFさんにとって、このスピーカーシステムの進化の過程は、必然的なものであったのかもしれない。
この第3世代進化系システムが完成したのが今年の初めの頃であった。しかし、「至福の時間」は実はそれほど長くは続かなかった。その後アナログオーディオの分野において、全く革新的な技術との邂逅がもたらされた結果、新たなそして大きな変革が、この広大な広さのリスニングルームにもたらされたのである。
「光カートリッジ」という言葉は今までに何度か聞いたことがあった。しかし、我が家のオーディオシステムは、ヴィンテージ機器が主要なポジションを占めていて、どちらかというと最新技術に背を向けているところがある。正直それほどの関心は持っていなかった。「光カートリッジ」は、「アナログとデジタルの良いとこ取り」とか「第3のフォーマット」と言われている。
この新たなアナログの世界に、お知り合いのオーディオマニアであるHさんのリスニングルームで触れたGRFさんは、椅子から転げ落ちんばかりに驚愕されたようである。その後、電磁誘導の曖昧さから解放された光カートリッジの世界に、一気に飛びこまれていったのである。
2本のSME シリーズⅤには二つの光カートリッジが装着されていた。一つはGrand Masterであり、もう一つはDS003であった。
光カートリッジには専用のフォノイコライザーが必要である。光カートリッジのメーカーであるDS Audioから何種類か発売されているが、GRFさんが選択されたのはEMM LabsのDS-EQ1である。
当初はMC用フォノイコライザーに光カートリッジ用入力を付ける計画であったが、エド・マイトナーは「光カートリッジの音を聴いたら二度とMM/MCカートリッジには戻れない。だからもうEMM LabsのフォノイコライザーにはMM/MCの入力は付けないことにした。」と計画を変更して光カートリッジ専用のフォノイコライザーの開発に切り替えて誕生した製品である。
GRFさんの広いリスニングルームでのOFF会の後半は「光カートリッジタイム」となった。まずは、GRF邸においてはアナログで必ず最初にかかる越路吹雪のリサイタル盤を聴いた。
「光カートリッジの音を聴いたら二度とMM/MCカートリッジには戻れない・・・」その言葉の真実味がひしひしと感じられる音の質感に少々度肝を抜かれた。「奥行き深い空間表現と、低音の明確さ、音の鮮度感・・・今までのアナログの常識を覆す音だな・・・」と、耳をダンボにして聴き入った。
その後、森進一などのリサイタル盤を数枚聴いた。いずれも50~60年前のリサイタルを収録したものであるが、その臨場感と鮮度感は、古さを全く感じないものであった。この音を聞かれた人が「聴く者がその時代にタイムスリップするのではなく、リサイタルそのものが現代にタイムスリップするかのようだ・・・」という趣旨の感想を漏らされたそうである。
クラシックのレコードも色々と聴かせていただいたが、最も印象的であったのは、シベリウスの交響曲第4番であった。カラヤン指揮のベルリンフィルの演奏である。もっとも脂の乗っていた時代のカラヤンは、重厚な響きが特徴のベルリン・フィルから、透明感あふれるシベリウス・サウンドを巧みに引き出している。
その切れとグリップの良さが実に心地よく、光カートリッジが拾い上げる精細な音情報がその名演を細大漏らさず表現している感があった。「光カートリッジの音を聴いたら二度とMM/MCカートリッジには戻れない。」・・・GRFさんは完全にその世界に入っていかれたようである。
今後もその新たな扉を開けて、「光の世界」に飛び込まれていくオーディオマニアが増えていくであろう。「光カートリッジ」は、GRFさんにとって、アナログオーディオの世界を新たに照らす「光」そのものであったようである。
by TANNOY-GRF
| 2021-07-28 09:20
| 来たり
|
Comments(2)
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TANNOY-GRF at 2021-07-28 09:26
今回は、ハンコックさんも来られる予定でしたが、緊急事態宣言とオリンピックの為に延期して、Taoさんだけが来られました。Taoさんも、前回は、4年ほど前で、40が後方に加わってからはお聴きになっていないので、三次元的なサウンドは初めてでした。どういう構成になっているかは、進化の過程を再現することでご理解いただきました。次回は、ぜひハンコックさんとお越しになり、和室の方のユニコーンもお聞きください。
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by
tao
at 2021-07-30 13:56
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GRFさん、先日は有り難うございました。
二つの大きな驚きは、貴重な体験でした。
次回はハンコックさんと一緒に再度行きたいと思っています。
ユニコーンの進化具合も気になるところです。
二つの大きな驚きは、貴重な体験でした。
次回はハンコックさんと一緒に再度行きたいと思っています。
ユニコーンの進化具合も気になるところです。