2021年 11月 27日
ラストダンスは私に 5 パグ太郎さんから |
先日、10年来のブログにヌード画像を掲載することになったと嘆かれてばかりですので、またまた不埒な文章をコメントにあげるのは憚られましたので、コメントに直接ではなく、メールにて「最後のダンス」についての感想をお送りします。基準に障るようでしたら、どうかご放念ください。
私にとってフランス語の歌詞がもっともセンシュアル。大人の女の濃厚な色気にちょっとタジタジとなってしまうほどです。
どこにそれを感じるか。それは最後のこの一節。
c'est dans tes bras que ce soir tu me serreras
今夜、私の所で、あなたがその腕で抱きしめるのは、私に決まっているのよ
今宵の最後の二人の情熱的ダンスが繰り広げられるのは、私の所(chez moi)の中でも、これは絶対に別室だとしか思えない、この歌詞とダリダの歌いぶり。
私のために残しておいて欲しいと、繰り返し繰り返し誘うのは、そういうラストダンスなのかも。
そう思って、もう一度聞きなおすと、
Et je n'ai plus qu'un désir, c'est t'empêcher un jour de partir.
Notre amour est trop beau.
望みはたったひとつ。私はあなたを離さない。二人の愛はそれほど素晴らしいから。
という部分も、またずいぶんとお熱いことと思えてしまうのです。比べるに、日本語歌詞の、なんと上品なこと。ここにいるのは、若い恋人を諦めの気持ちで眺めやる、上流の奥様。言葉遣い自体が山の手風。「薔薇の騎士」の元帥夫人とオクタビアンの関係の様です。そういう意味では、哀愁というか、複雑な心情、詩情が最も籠っている気がするのです。
この二人と並べると、オリジナルの英語版は、ティーンエイジャーの、発散する術も分からない痛みの様な羨望・欲望の表現で、アメリカングラフィティに描かれた、小さな田舎町のダウンタウンをぐるぐる回るしかない若者たちの暑苦しい夜の情景が近いのかもしれません。
あ、でも、「薔薇の騎士」のオクタビアンのセリフにもそういう、幼い健全な欲望の吐露がありましたね。さらにいうと、このオペラには、フランス語版歌詞のポルノグラフィックな誘惑を上回る、オペラ史上最も劣情的音楽表現と言わる幕開け直前に訪れるクライマックスの描写があるわけで・・・。R.シュトラウスのこの作品には、「ラストダンスは私に」の英語、フランス語、日本語の三様の世界が散りばめられていたなんて、馬鹿な発見に行き着いたのであります。
題して、『薔薇の騎士』に隠された『ラストダンスは私に』の三つの情念・・・お粗末様でした。
パグ太郎
フランス語がご専門のパグ太郎さんから、ご感想が届きました。フランス語の歌詞は、アメリカの原曲より遙かに色っぽくなっているというご指摘です。そうです!最初にダニエル・ダリューDanielle Darrieuxの演奏を聴いたとき、バラの騎士の公爵夫人みたいだとすぐに思いました。
そして、ダリダの別のビデオを見ると、ご指摘の
Oui, n'oublie pas
Que c'est dans tes bras
Que ce soir tu me serreras
Garde bien la dernière danse pour moi, uhm
Garde bien la dernière danse pour moi, uhm
Que c'est dans tes bras
Que ce soir tu me serreras
Garde bien la dernière danse pour moi, uhm
Garde bien la dernière danse pour moi, uhm
の辺りから、髪の毛を触り、いかにもと言うポーズを取っていて、危ない危ないと思いました。それに引き換え、岩谷時子の訳詞は、一見子供っぽく見えますが、大人の女の象徴でもある越路吹雪が歌うと、言外にいろいろな意味が伝わってきます。これぐらいで押さえないと!と岩谷時子が思ったのかもしれません。
今回もフランス語特有の第三人称の言い回しが登場します。文字は違っても発音は同じの三人称の単数と複数。間接目的に使うときのluiの使い方などなど。言葉の意味も複数有って、文章の流れでも意味が変わります。訳すときも前後関係を把握しないといけませんね。Aznavourの時もお世話になった、朝倉ノニーさんの訳詞をしっかりと味わってください。
Garde la dernière danse pour moi ラストダンスは私に
Dalida ダリダ
Va danser 注1
Toutes les danses que tu veux
Dans les bras de celles que tu entraînes au loin
Va sourire
Des sourires merveilleux
Pour les danseuses dont tu tiens la main
踊っていらっしゃい
なんでもあなたのお好きなダンスを
あなたが遠くに連れて行く女たちの腕のなかで
微笑んでいらっしゃい
素晴らしい笑みで
あなたがその手をとる踊り手たちに
Mais n'oublie pas
Que ce sera toi
Qui m' conduiras ce soir chez moi
Garde bien la dernière danse pour moi
でも 忘れないで
今夜わたしをうちに送るのは
あなただってこと
最後のダンスはちゃんとわたしにとっておいてね
Il y a
Quelquefois des refrains
Plus forts que le vin
Qui vous tournent la tête
Chante et ris
Mais, je t'en supplie,
Pour une autre que moi ne vole ton cœur
ときには
ワインよりも効くルフランがあって
あなたをクラクラさせるわ
歌いなさい笑いなさい
でも、わたしはあなたにお願いするわ
わたし以外の誰かがあなたの心を奪わないようにと
Et n'oublie pas
Que ce sera toi
Qui m' conduiras ce soir chez moi
O garde bien la dernière danse pour moi
そして忘れないで
今夜わたしをうちに送るのは
あなただってことを
最後のダンスはちゃんとわたしにとっておいてね
Comprends-moi, chéri, je t'aime trop
Et je n'ai plus qu'un désir
C'est t'empêcher un jour de partir
Notre amour est trop beau
わたしの言うことわかってね、いとしい人、
あなたをあまりにも愛してるわ
だからわたしの望みは一つだけ
それはいつかあなたが行ってしまうのを妨げること
わたしたちの愛はあまりにも美しいわ
Va danser
Tu vas t'amuser
J'attendrai le jour
Pour notre retour
踊っていらっしゃい
楽しんでいらっしゃい
わたしはわたしたちがまたいっしょになる
ときを待つわ
Si quelqu'un
Veut que tu l'accompagnes jusqu'à la maison
Dis-lui bien que non
Car n'oublie pas que ce sera toi
Qui m' conduiras ce soir chez moi
Garde bien la dernière danse pour moi
もしも誰かが
家までついて来て欲しいと望んだら
イヤだと言ってね
だって忘れないでそれはあなたなのよ
今夜わたしをうちに送るのは
最後のダンスはちゃんとわたしにとっておいてね
Oui, n'oublie pas
Que c'est dans tes bras 注2
Que ce soir tu me serreras
Garde bien la dernière danse pour moi, uhm
Garde bien la dernière danse pour moi, uhm
Garde cette danse pour moi
そう、忘れないで
今夜あなたはわたしをその腕に
抱き締めるのよ
最後のダンスはわたしにとっておいてね、ウーム
最後のダンスはわたしにとっておいてね、ウーム
このダンスはわたしにとっておいてね
Va danser 注1
Toutes les danses que tu veux
Dans les bras de celles que tu entraînes au loin
Va sourire
Des sourires merveilleux
Pour les danseuses dont tu tiens la main
踊っていらっしゃい
なんでもあなたのお好きなダンスを
あなたが遠くに連れて行く女たちの腕のなかで
微笑んでいらっしゃい
素晴らしい笑みで
あなたがその手をとる踊り手たちに
Mais n'oublie pas
Que ce sera toi
Qui m' conduiras ce soir chez moi
Garde bien la dernière danse pour moi
でも 忘れないで
今夜わたしをうちに送るのは
あなただってこと
最後のダンスはちゃんとわたしにとっておいてね
Il y a
Quelquefois des refrains
Plus forts que le vin
Qui vous tournent la tête
Chante et ris
Mais, je t'en supplie,
Pour une autre que moi ne vole ton cœur
ときには
ワインよりも効くルフランがあって
あなたをクラクラさせるわ
歌いなさい笑いなさい
でも、わたしはあなたにお願いするわ
わたし以外の誰かがあなたの心を奪わないようにと
Que ce sera toi
Qui m' conduiras ce soir chez moi
O garde bien la dernière danse pour moi
そして忘れないで
今夜わたしをうちに送るのは
あなただってことを
最後のダンスはちゃんとわたしにとっておいてね
Comprends-moi, chéri, je t'aime trop
Et je n'ai plus qu'un désir
C'est t'empêcher un jour de partir
Notre amour est trop beau
わたしの言うことわかってね、いとしい人、
あなたをあまりにも愛してるわ
だからわたしの望みは一つだけ
それはいつかあなたが行ってしまうのを妨げること
わたしたちの愛はあまりにも美しいわ
Va danser
Tu vas t'amuser
J'attendrai le jour
Pour notre retour
踊っていらっしゃい
楽しんでいらっしゃい
わたしはわたしたちがまたいっしょになる
ときを待つわ
Si quelqu'un
Veut que tu l'accompagnes jusqu'à la maison
Dis-lui bien que non
Car n'oublie pas que ce sera toi
Qui m' conduiras ce soir chez moi
Garde bien la dernière danse pour moi
もしも誰かが
家までついて来て欲しいと望んだら
イヤだと言ってね
だって忘れないでそれはあなたなのよ
今夜わたしをうちに送るのは
最後のダンスはちゃんとわたしにとっておいてね
Que c'est dans tes bras 注2
Que ce soir tu me serreras
Garde bien la dernière danse pour moi, uhm
Garde bien la dernière danse pour moi, uhm
Garde cette danse pour moi
そう、忘れないで
今夜あなたはわたしをその腕に
抱き締めるのよ
最後のダンスはわたしにとっておいてね、ウーム
最後のダンスはわたしにとっておいてね、ウーム
このダンスはわたしにとっておいてね
[注]
1 Va danserはaller+inf.の形の命令形で、強意あるいはなんらかのニュアンスを込めた表現。「踊ってらっしゃい」と訳した。
2 この2行を直訳すると、「それはあなたの腕の中よ、今夜あなたがわたしを抱きしめるのは」となって、なんとも妙なので意訳するしかない。「最後のダンス」というのは特別の意味を持っているのだということがうかがわれる。越路吹雪が歌う日本語の歌詞はほぼ原文に忠実だが、この辺のニュアンスが伝わらないものになっている。
1 Va danserはaller+inf.の形の命令形で、強意あるいはなんらかのニュアンスを込めた表現。「踊ってらっしゃい」と訳した。
2 この2行を直訳すると、「それはあなたの腕の中よ、今夜あなたがわたしを抱きしめるのは」となって、なんとも妙なので意訳するしかない。「最後のダンス」というのは特別の意味を持っているのだということがうかがわれる。越路吹雪が歌う日本語の歌詞はほぼ原文に忠実だが、この辺のニュアンスが伝わらないものになっている。
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by TANNOY-GRF
| 2021-11-27 22:08
| 好きなレコード
|
Comments(1)
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TANNOY-GRF at 2021-11-29 10:14
パグ太郎さん やはりそうですか?フランス語の歌詞が一番大人の歌なのですね。この頃のフランス映画を思い出しても、女性目線で描かれた話が多かったような・・。とくにこのダリダの動画の最後の仕草を見ると、その通りだと納得せずを得ません。
この記事は先週仕上げてあったのですが、土曜の予定が変わり、そのまま公開をしていないのに今朝気がつきました。でも、さりげない登場のほうが話題にふさわしいですね(爆)。
この記事は先週仕上げてあったのですが、土曜の予定が変わり、そのまま公開をしていないのに今朝気がつきました。でも、さりげない登場のほうが話題にふさわしいですね(爆)。