2022年 08月 31日
開発者が語る 「フローティングボードについて」 |
今回のフローティングボードは、去年の6月、Hさんからのオーダーで製作したReed 3C用ラックの完成が事の始まりです。私も初めて見るReed 3CがHさん宅にやって来ました。組み立て作業を見ていると、まるで機械式時計のムーブメントを思わせる削り出し部品の数々と精度の良い造りに感心させられます。
3Cの設置時に行われる重要な作業としてプレーヤー本体の水平調整が有ります。3Cには電子傾斜計が内蔵されておりその精度は1mm/m、角度で言うと0.06度の精度で水平を出します。デザインも一般的なアナログプレーヤーとは全く違っていて円柱が3つ繋がっている様な特徴の有る外観をしています。HさんはReed 3Cに同社のアーム5Tを2本搭載し、ダブルアーム仕様で運用するとの事。ついては専用のラックを作って欲しいとのHさんからの依頼が有り、色々と頭を悩ます日々が続きました。
まず伺ったのはラックに収める予定の機器です。最上段にReed 3C、その下には光カートリッジ専用のemm社製フォノイコ、その下にはフォノイコ内蔵プリMola Mola、最下段にはReed 5T用の電源が2基という布陣です。
重量の有るプレーヤーを最上段に据える事を考えるとラックには相当な強度が求められます。最初に4隅の足を太い角材にして強度を出そうと設計を始めましたが、思わぬ所で問題にぶつかります。
レコード盤に針を落とす動作を観察していると指先は非常に繊細な動きをしています。自然と体全体がプレーヤーに近づいていきます。その際に4隅の足が邪魔になるのです。太い足なら尚更です。実際にHさんにこの点を聞いてみると特に奥側のアームを操作する際に足が邪魔になる事が判りました。
そこで大きく考え方を変え、4隅の足を無くそうと楕円形のラックを考えつきました。Reed 3Cの前衛的なデザインともうまくマッチし使い勝手の向上も狙った楕円形です。その楕円形ですが、強度の点では1歩も2歩も後退してしまいます。4隅で踏ん張っている足を廃止して2本で支える事になりますから、当然の結果です。デザインと強度の両立を実現する為、金属フレームと木材の融合に行き着きました。両サイドにH型鋼を立てH鋼同士を角パイプで繋ぐフレーム構造に木材を組み合わせて行くスタイルです。この金属フレームの効果は絶大で木製ラックとは比較にならない強度と設計の自由度を与えてくれました。
金属フレームの採用で一番恩恵を受けたのは、アジャスターが使える様になった事です。住宅の床は多少なりとも不陸が有り水平では有りません。そこでアジャスターの登場です。水準器を用いて完璧に水平とガタを取る事が出来ます。今回のラックでは8個のアジャスターを装備し、荷重の分散と水平の微調整に備えています。
全部で4段のラックですが、中2段はマグネットフローティング機構を組み込んでいます。木製ラックと比較すると金属フレームは内部損失が少なく振動を素早く伝えます。その振動を磁力を使い熱エネルギーに変換する仕組みです。金属フレームとマグネットフローティングの相性が思いのほか良く、効果の方向も今までのフローティングとは少し違う印象です。低域方向のレンジ拡大と音場の広がりに大きな違いが聴き取れます。
このラックの完成を待ってGRFさんをHさん宅にご招待した話はGRFさんのブログに詳しく書かれておりますので、ここでは詳しく触れません。そのラックの構造と音の変化を注意深く観察されていたGRFさんが自身のラックを同じ構造で製作する決断をします。上下2段、機器が横に3台並ぶ大きさです。4隅に肉厚のLアングル材を配したフレームを持ち下段の3台分はフローティング構造を組み込んでいます。
木部はTW3、TW5と同じバーズアイメープルで仕上げています。
このラックに変えての第一印象はS/Nが非常に良くなった事。分解能が上がり細かい音が聴き取れます。滲みがないというかピントが合い精緻な音場が展開されています。
トロバドール80とTW3を駆動している真空管アンプを下段のフローティングボードに乗せた際の驚きは思わずGRFさんと顔を見合わせた程の出来事でした。精緻な音場にダイナミックさが加わったからです。しかしその驚きも束の間、真空管が発する熱エネルギーが予想以上に大きく、決して狭くないラック内が熱で熱々です。金属フレームにも熱が伝わりラック全体が温められています。
これは予想外の事態です。
音は抜群に良くなったのに、残念ながらラックから真空管アンプを下ろす事になってしまいました。しかし、この音を聴いてしまったからには後には戻れません。そこでラック外の床に単体で置けるボードを製作する事になりました。単体のボードながら基本構造は踏襲します。角パイプを溶接し、フレームを作ります。小さくてもアジャスターを4隅に配置してあります。
真空管アンプはトランス部分が重く、重量が偏っています。そこでマグネットの反発距離を個別に調整できる機構を組み込みました。真空管アンプに合わせたコンパクトなフローティングボードの完成です。
早速GRF邸に持ち込み設置してみます。ベースフレームで完璧に水平を出します。次にアンプの重心を考慮してマグネットの距離を調整します。慎重に天板を乗せ直動ベアリングにシャフトを通していきます。天板にアンプを乗せトランスに水準器を置き水平になる様調整していきます。この作業により直動ベアリングに掛かる荷重が最小になり、浮いている天板の動きもスムーズになります。
ようやく設置完了です。早速音を聴いてみます。
GRFさんは瞬時に低域方向の変化を感じとられた様です。私は音場の広がりに大きな変化を感じました。最初にラック下段に設置した際の驚きが蘇ります。LPから2トラ38テープの様な低域が再生されています。この深く沈み込む音が小音量のLPから再生されているとは驚き以外有りません。個人的には音の広がりに加え、声の実在感にヤラレました。声が伝わる様子がハイスピードカメラで撮った映像を再生しているかの如く手にとる様に感じられます。私にとってこの感じは貴重です。ボーカリストをリアルに感じられる瞬間です。
勿論、このラックの効果だけでこの音が出てるとは微塵にも思っておりません。たまたまこのタイミングで音の進化を続けるGRF邸に持ち込んだのが功を奏しただけかも知れません。しかしながらこの進化した音を構成している1ピースになっている事は間違いなさそうです。金属と木の相乗効果が上手く引き出せた結果でしょうか。
人も物も巡り合わせが一番大事だったりします。今回も良い巡り合わせに恵まれたのだと思います。GRFさんはじめHさん、その他多くの方々に日々色んなヒントを頂いております。人との出会いと関わりに感謝しつつ今後も発展し続けて行けたらと思っております。
by TANNOY-GRF
| 2022-08-31 05:54
| オーディオ雑感
|
Comments(2)
大山さんとは、石田さんのSD05に合うスピーカーの開発時から共に歩んできました。彼の開発力、デザイン力は卓越しています。家のTWシリーズのキャビネットや、先日の横浜のMさんの斬新なプレーヤーキャビネットはじめ一品ものの製作もこなされています。
一見地味ですが、家の音もこの新しいラックが来てから、一段と磨きがかかりました。その上で、レコード関係のいろいろな実験ができるのだと思い、感謝しています。
一見地味ですが、家の音もこの新しいラックが来てから、一段と磨きがかかりました。その上で、レコード関係のいろいろな実験ができるのだと思い、感謝しています。

GRFさま
大山さんのラックは強力そうですね。
デコラの完全リストアの頃からの愛読者として感慨も無量でございます。
いつか今現在の到達点を聴きたいものだと思っています。
S.Y
大山さんのラックは強力そうですね。
デコラの完全リストアの頃からの愛読者として感慨も無量でございます。
いつか今現在の到達点を聴きたいものだと思っています。
S.Y