2025年 05月 07日
taketoさんのご感想 |
連休に念願のGRF邸に訪問することができました。GRFさんに関しては、もう10年以上前からBLOG等で存在を存じ上げていました。私にとっては雲の上のような方であり、”ご自宅に伺うためには、それに見合う経験と実力をまず認められなければならない”と思っておりました。
つい先日、CENYAさんの引越しをgenmiさんと一緒に手伝った折、GRFさんの話題が上がりました。是非、一度、GRFさんの音を聞いてみたいとお話ししたら、話を繋いでいただきました。お二人には感謝しています。持つべきものは人脈ですね。
GRFさんといえばメインスピーカーのGerman Physiksを連想する方が多いと思います。水平360度指向特性をベンディングウェーブにより達成した非常に繊細で完成度の高いスピーカーユニットが特徴です。私は、これまでこのスピーカーをオーディオショーでしか聴いたことがありませんでしたが、広大な音場の中で、非常に美しい音色の楽器が鳴るイメージがあり、とても印象が良かったのです。
オーディオから放たれる音について、どのような嗜好を持つかは個人の自由です。大切なのはその嗜好と現実をいかに近づけることができるかだと考えます。私個人の動かせない嗜好は”いかなる価格帯や規模の装置であっても音離れと後方展開は維持する”というものです。そう考えたときに、オープンバッフル型、コンデンサ型、360度指向性スピーカーなどの”スピーカー後方へのエネルギーが強いスピーカー”は比較的簡単にそれができることは経験則として知っていました。
約10年間、オープンバッフルと360度指向性スピーカーを自作してきた私にとっては、GRF邸に於いて恐らくは同一の嗜好ベクトルの”先”にある音が聴ける筈だという期待がありました。
UNICORNのある部屋(和室6畳)
最初に案内して頂いたのはユニコーンのシステムです。ピックアップ固定型という非常に珍しい機構を使ったSONYのCDP(トランスポートに改造)、MeitnerのDAC、MolaMolaのプリ、是枝氏の真空管パワーアンプに、Unicornの組み合わせでした。スピーカー以外はマグネットを使用したフロート型のボード上に設置されていました。
早速聴かせて頂いたのですが、スピーカーの後方僅か30cmほどの距離の壁の存在が消え、奥行き感のある音場と定位が出現します。一般的には狭い和室は吸音過多で(癖が少なかったとしても)、こじんまりした、スピーカーに貼りつくような音場になりがちなのですが、全くそんな印象はありません。いわゆる、”壁抜け”がスムーズに出来ている状態です。
聴き進んでいくと他にも特長がわかってきます。ユニットが高い位置にもかかわらず、楽器群の定位が目線の高さより下に展開します。フルレンジスピーカーなので音域による定位の上下動はなく、混然一体となりながらも楽器が混濁せずに表現されている状態です。つまり高い位置からオーケストラを僅かに見下ろしているような、ホールの2階席から聴くような雰囲気に聴こえます。
私は、過去にバックロードホーンの使用経験があり、それをやめたのは中高域と低域の分離感に意識が向かってしまうからでした。同じバックロードであるユニコーンにはその分離感が全くなく、物理的に離れているフルレンジ部とホーン部がとてもスムーズにつながっています。勿論、低域に解像度を求めると直接放射型からは落ちるように感じるのですが、それ故のまったり感が距離とスケールの再現にプラスに関与している印象です。
そして、ホーン開口部に置かれたAccutonの30mm口径のスーパーTW。これの有無の実験は面白かったです。低域の激変が一瞬で分かります。簡単に言うとティンパニ等の打楽器の低音が、ホールの壁に反射して轟くように聴こえるようになります。割と高い帯域から-6dB/octでフィルタをかけているだけの接続なのですが、この効果は本当に不思議です。
GRFのある部屋(洋室24畳)
一般家庭では見かけることの殆どない、20畳超えのオーディオ専用ルームです。このお部屋ではTroubadour 80とPSD特注のScan-speakのペーパーコーンを使用したウーハーの2Wayがメイン。クロスは確か280Hzで12dB/oct。後方2mほどの位置にTroubadour 40とメインと同じくPSD製のウーハーが設置されています。
Troubadour 80とTroubadour 40はリスニングポジションから見てほぼ同一線上にセットされています。リスニングポジションが低めなのでTroubadour 40は高めの位置にあります。Troubadour 40にDelayやEQはかけられておらず、Troubadour 80とシンプルに並列に接続されています。したがってインピーダンスはアンプから見て低くなっています。
駆動機器側は、EMMのトランスポートとDAC、そしてプリアンプのMolaMolaに内蔵のDACで、ユニコーンシステムと相似形といって良い構成です。このシステムは和室のユニコーンシステムと異なり、1階席から僅かに見上げるイメージで音場が展開します。ユニコーンシステムと異なるのは低域の解像度と全方向へのスケール感の拡大でしょうか。あと、特徴的に感じるのは微小音の再現性。
メインスピーカーの遥か後方に音場が構成されるのですが、音場型スピーカーにありがちなモヤっとした音ではなく、細部がよく見えます。例えばライブアルバムでは、メインボーカルの密度の濃さに相まって、さりげなく収録されている客席の環境雑音が非常によく聴こえるので、眼前にホールが展開しているような音を、思い込みを強めなくても感じることができます。この”ホールの実在感の強さ”が当システムの最大の強みと感じました。
アナログシステムはReedのトーンアームと光カートリッジ等を使用しています。アナログから想定される以上の安定感と密度の濃い表現が素晴らしかったです。アナログで聴かせて頂いた越路吹雪のライブは、時空を遡る感覚がとても強く、もう叶うことはないのですが、越路吹雪の大ファンである亡くなった母に聴かせてあげたくなりました。
その他
GRFさんと私は録音と再生の考え方、音の嗜好に似たところを多く感じました。特に音の嗜好は訪問前に期待した通りの方向性だったので、驚異的ではあったものの、違和感なく楽しむことができました。私とGRFさんの違いは、理想を現実化するためのセンス・熱意・経済力のそれぞれに半端なく差があること。ただ、私にとってはまっすぐ進んだ先の灯台が見えた気がして、とても清々しい思いで帰途につくことができました。
貴重な経験を有難うございました。
taketo
taketoさん
ご感想をありがとうございました。楽しんでいただけて何よりです。音場を聴かれている方は少ないので、お迎えする方としても楽しい出会いでした。ご紹介していただいたgenmiさんやCENYAさんに感謝です。
越路吹雪さんのことを知っている方も少なくなって来ました。昔、日生劇場に通われた越路吹雪ファンの方々は、80歳を越されているでしょうが、一度のこの音をお聞かせしたく思っています。どれほど驚かれることでしょう。レコードは音楽だけではなく、その時の空気も再現するタイムマシンですから。
ユニコーンとの出会いから、Troubadourと20Hzまで再生するウーファーを前後に使用した、おそらく世界にも類のない無指向性のシステムを開発することができました。和室のユニコーンから発展はしてはいますが、目指す方向は正反対です。イメージを追う和室のユニコーンと、実在感ある音を追求しているTroubadourのシステムです。まだまだ発展途上です。どこまで行けるか楽しみですね。
by TANNOY-GRF
| 2025-05-07 06:51
| 来たり
|
Comments(1)
taketoさんのXにご紹介していただきました。英文の要約もあり、インターナショナル化が進んでいますね。
The X post by @Xenos_audio
highlights a visit to the GRF residence, a renowned audio enthusiast's home in Japan, documented on the blog "GRFのある部屋," which has been active for nearly 20 years and focuses on high-fidelity audio experiences.
Taketo describes being captivated by GRF's German Physiks speakers, known for their 360-degree sound dispersion, and the Unicorn system in a 6-tatami mat room, which creates a deep, immersive soundstage despite spatial constraints, defying typical acoustic limitations.
The blog post details GRF's advanced audio setup, including a 24-tatami mat room with Troubadour speakers and a custom woofer, delivering exceptional sound resolution and a "hall-like" realism, showcasing cutting-edge audio engineering principles like omnidirectional sound and precise low-frequency integration.
The X post by @Xenos_audio
highlights a visit to the GRF residence, a renowned audio enthusiast's home in Japan, documented on the blog "GRFのある部屋," which has been active for nearly 20 years and focuses on high-fidelity audio experiences.
Taketo describes being captivated by GRF's German Physiks speakers, known for their 360-degree sound dispersion, and the Unicorn system in a 6-tatami mat room, which creates a deep, immersive soundstage despite spatial constraints, defying typical acoustic limitations.
The blog post details GRF's advanced audio setup, including a 24-tatami mat room with Troubadour speakers and a custom woofer, delivering exceptional sound resolution and a "hall-like" realism, showcasing cutting-edge audio engineering principles like omnidirectional sound and precise low-frequency integration.




