2025年 05月 26日
カーチュン・ウォンと日本フィルのマーラーの第5番 |
4月の上旬、日曜の夜の NHK教育テレビのクラシック音楽館で、N響ではなくて日本フィルの演奏会が放送されました。23年に日本フィルの常任指揮者に就任したシンガポール出身の指揮者、カーチュン・ウォン(黄 佳俊)さんの演奏で、マーラーの第二番でした。彼はデュダメルが第一回の優勝者でもある、五年に一度開かれるマーラー指揮者コンテストの第3回の優勝で世界に知られました。現在は、ドレスデン・フィルと日本フィル、そしてマンチェスターのハレ交響楽団の三つのオーケストラの常任指揮者です。
画面は、日本フィルの練習場である杉並公会堂に指揮者が到着するところから始まります。3月上旬の演奏会を翌日に控えた最後のリハーサルの様子です。杉並公会堂は、彼らの練習場で使われていますが、本番の定期演奏会では、定員が1,200名なので、2,000名入る演奏会場には採算面で負けて、杉並では年に何回か開かれません。放送された演奏会は、東京の定期演奏会場であるサントリーホール での収録でした。いつもはクラシック音楽館の放送は、ビデオに撮って置いて後から見るのですが、この時は、期待もあり9時からの放送をライブで見ました。
驚きましたね!
冒頭のコントラバスとチェロのユニゾンの大迫力から、最後の大円団で、大きな鐘の音が会場中に響き渡るところまで、食い入る様に見てしまいました。これが日本フィルか!?と言う驚きと、マーラーの交響曲を全て暗譜していると言われる、指揮者の確信に満ちた棒振りとわかりやすい指示。音を最後まで鳴りきらされるエネルギーに満ち溢れた演奏。何よりも的確なテンポ設定。
スローなテンポだけれども、あたかもクレンペラーの様に、マーラーのオーケストレーションの構築を、楽器ごとにレイヤーを設定した設計図を広げた様に、いく層にも重なったオーケストレーションを的確に展開して、日本のオーケストラからは、通常聞こえない最低域も再現した迫力ある演奏です。ビデオに撮っているのに、全曲テレビに釘付けになって聴き通しました。
終わって、すぐに椀方さんに連絡しました。彼も放送を聞いていて、同じ様に驚きの返事が返ってきました。テレビを見ながら、彼の生の演奏会を聞かなければと思い、調べると、直近が5月の24日と25日の週末で、土曜が大宮のソニックシティ、日曜はサントリーホール で開催されます。この時点では、どちらも空いてはいたのですが、日曜日は先約もあり、少し遠いのですが、土曜日の大宮公演の方を選びました。入場券は、なんと6000円でした。ミューザのベルリンフィルはとうとう五万円!一週間前のマケラ・コンセルトヘボウは4万円ですから、日フィルなら一年間通えます!
演奏は、凄かったです。
期待以上でした。文化会館と同じ様に音は全部前に出てきます。ミューザの様なホールの響きを楽しむのではなく、音のエネルギーを聴くと言う感じです。ウォンさんにはぴったりではないでしょうか?昔、文化会館で聞いたレニングラードフィルの音を思い出したほどですから、日本フィルの演奏も気合が入っていました。ホール全体が中音ホーンの様な形状ですから、音は前に飛び出してきます。うちで目標にしているミューザの響きとは全く違います。
それでも全力疾走するコントラバスとチェロの迫力ある響き、目一杯叩かれる大太鼓の重低音。地を這うコントラファゴットの最低音。安心して聴いていられる、トランペット4管編成とホルンの8管編成やトロンボーン群、4管編成の木管群の大迫力も相まって、自信を持って管楽器は演奏されます。N響とは大違いです。
国内のオーケストラで、安心して聞いていられるホルンソロの気持ち良さは、なかなか味わえません。ウォンさんの指揮では、入念に準備運動をして、普段動かしていない身体中の筋肉を伸ばして、運動そしている様で、気持ちがいいです。あれだけしっかりと指揮をしてもらえると、オーケストラは張り切るしかありません。この調子で1時間以上持つのだろうかと思わせる様な全力投球が続きます。団員は演奏が終わったら疲労困憊ではないかと懸念するほどです。明日も、サントリーで同じ時間に演奏会があるというのに・・・
これ以上の要望はないほど、毛細血管まで血の通った、徹底した演奏ですが、個人的な要望があるとしたらシンバルの楽器を、この強打に耐えられる様な幾分クールな感じににして欲しいと思いました。爆発的に鳴った時、金属の音が少し暖色系です。ウィーンフィルやベルリンフィルの様な、銀色の音でなって欲しいと思いました。現在の音は、銅の比率が高い様な暖かい音なので。
この金管楽器の水準なら、マーラーばかりではなく、リヒャルト・シュトラウスもストラヴィンスキーも聴いてみたいですね。第一楽章から大満足ですが、第二楽章で、もう一曲聴き通した様な充足感があふれました。ホルンが崩れ落ちる様な第三楽章も、ソロホルン奏者の信末さんが全く破綻しません。トランペットのクリストーフォリと共に、世界一線級です。ストレス解消に当分日本フィル通いですね。(笑)
トロンボーンやチューバホーンの大迫力も金管楽器は総じていいです。それにフルート、クラリネット、ファゴットの木管楽器もいいですね。強壮の部分では、楽器を持ち上げて高々と鳴らしますが、その効果がはっきりと聞こえます。ティンパニストばかりではなく打楽器全般に確信に満ちた叩き方が小気味いいです。これに弦楽器に柳の様な柔軟性が加わればいうことはありませんね。
大曲ですから、聴く方も覚悟が入ります。事前のトイレは、老人には欠かせませんから、長蛇の列でした。もと数があってもいいですね。終わってから指揮者とソリスト、コンサートマスターを迎えて質問会がありました。
前方の席に移動して、質問会を見ましたが、終わって後ろを振り返ると、いかにこのホールが大きいかが分かります。質問会は、30分ぐらいでしたが、終了時には、大勢の人たちが出口に来て、道路へ直接出られるガラス戸も解放していました。でも、いざというときに2500名もの観客を安全に脱出できるのか、少し怖くなりました。おそらく、安全を確保するまでホールに留め置かれるのでしょうね。
by TANNOY-GRF
| 2025-05-26 19:51
| 演奏会場にて
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Comments(1)
日本のオーケストラ、それも小学生から聴いている日本フィルから、この様な音が、音楽が飛び出してくるとは思いもしませんでした。今まで聴いた日本のオーケストラの中で、一番素晴らしい金管でした。当分、日本フィル通いが止まりませんね。





